気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第78弾は「大崎」です。
「大崎」駅の南改札を出ると、高層のオフィスビル同士をつなぐ幅広い歩行者デッキが広がっています。以前筆者がこれらのビル群で仕事をしていたこともあって、大崎に対しては “整備されたビジネス街” というイメージをずっと抱いてきました。
しかし近年、この街は住む場所としても人気だといいます。改札前で開催されているマルシェで買い物をする地元の主婦らしき人たちを見ながら、『どんな人が大崎に住んでいるのかだろう』と思いを巡らせていました。
取材陣は駅の南東側にある「ゲートシティ大崎」の横を抜け、目黒川を越えて整備された道を進みます。と、そこに開放的なお店が。今回の取材先であるカフェ兼コミュニティスペースの「CAFE&HALL ours(以下:アワーズ)」です。
■かつての工場街が、再開発で生まれ変わった
今回は、大崎の街づくりを行っている一般社団法人「大崎エリアマネージメント(OAM)」の東城 瑞枝さん、「アワーズ」の運営を担う、株式会社ワットの今井 里紗さんと宮原 泰佑さんにこの街についてお聞きしました。
ちなみにOAMは、品川区が設定した都市再生ビジョンに沿って、地域との連携を図りながら様々な街づくり事業を牽引するエリアマネージメント団体。2015年に全体竣工した「パークシティ大崎」地区では、公共施設として「北品川地域交流施設」が作られ、そこでOAMと株式会社ワットが協業で「アワーズ」を運営しています。
OAM・東城さん:大崎はかつて、西側も東側も工場街で閑散とした街でした。やがて工場の海外移転が進み、工場跡地の再開発がスタートしました。大崎のように広い土地がまとまっていると、再開発をする上では一気に街を整えやすいというメリットがあります。
今の大崎駅周辺の姿からは、かつて工場街だったことは想像できません。それは一気に大きく街が変わったという証拠。再開発が始まったのは1978年頃で、エリアごとに順を追って街が整備されてきたそうです。
OAM・東城さん:大崎エリアとその周辺には古くから魅力のあるスポットが点在していて、相互アクセスが良いことが特徴です。かつて徳川家の別邸があった由緒ある高級住宅街・御殿山(ごてんやま)、昔ながらの商店街である百反坂(ひゃくたんざか)、さらに五反田の飲食街も近い。生活をする上では、とても利便性が高い土地なんです。
歴史ある落ち着いた住宅街があり、飲食や買い物にも不便なく、他の街へのアクセスも良い……。人気が出るのも頷けます。社会の移り変わりと再開発、そして元々の魅力のある土地柄という様々な要素が混じり合って、今の大崎を織りなしているんですね。
■地域に住む人・働く人を「アワーズ」がつなぐ
さて、再開発で「綺麗にする」「経済的に豊かにする」を至上命題にしてしまうと、冷たい印象の街になってしまいがち。しかし、ここ大崎は違います。
『街と住む人や働く人が馴染むような、コミュニケーションが生まれ育つ環境にしたい』この街の再開発はそんな想いで進められ、その象徴的な場所のひとつが、ここ「アワーズ」なのです。
OAM・東城さん:単に『施設を作る』だけでなく、その場が育っていくことが大切です。作って終わりでは、本当に地域に貢献していることになりません。施設所有者は品川区ですが、交流施設として継続をさせていくために、ノウハウが豊富な㈱ワットさんにプロデュースと運営を協力していただくことになりました。
こだわりあるオーガニック食材を使用した「アワーズ」のメニューは、食に関心の高い親御さんに定評があるそう。また、広いスペースを確保しているため、ベビーカーがそのままテーブル横に置けるなど、配慮が行き届いた空間設計も人気の理由でしょう。
また、カフェレストランとしての一面以外にも、レンタル可能なコミュニティスペースとして地域住民に愛されているのが大きなポイント。店内はパーティションによって仕切ることができ、少人数での集まりから大人数のイベントまでフレキシブルに対応が可能なのです。
ワット・宮原さん:公民館のような地域の会議利用のほか、近隣企業の社員研修やセミナー、料理教室、さらにはヨガ教室などでもご利用いただいてます。
個人のお客様は、たこ焼きパーティーをされたり…… そうそう実は、バックヤードには神輿が収められていて、お祭の当日にはここが休憩所として使用されるんですよ。
利用の幅がとにかく広いことに驚きました!『地元の人にフレキシブルに使って欲しい』と作られた施設は数多くありますが、中には認知や利用が上手くいっていないケースもあります。しかし「アワーズ」は本当に地域に住む人や働く人に寄り添うスペースとして活用されているようです。
ただ、オープン直後は今のような活発な使われ方はされていなかったといいます。使いやすく居心地の良い場作りを地道に続け、様々な利用方法を提案することで、利用者にじわじわと認知されていったそうです。
ワット・宮原さん:店舗には “コミュニティビルダー” という担当者がいて、地域のコミュニティスペースとして活かせるように試行錯誤をしながら運営をしています。
無農薬野菜の販売や物販コーナーなど新しい取り組みも行っていて、これからも地域に根付いた活動を続けていきたいです。コロナ禍ということもあって、現在はオンラインでの情報発信やテイクアウト販売にも力を入れています。
コミュニティビルダーを務める今井さんによると、今では近所の常連さんとスタッフがあだ名で呼び合うような関係性が築かれているとのこと。地域の人にとって生活の一部となった「アワーズ」は、生き物のように日々成長し、笑顔の絶えない場となっているようです。
■ビジネスだけでなく、住む魅力にも溢れる街
最後に、大崎の街の魅力をうかがいました。
OAM・東城さん:私のお勧めは目黒川沿いです。日頃の散歩やジョギングにぴったりですし、なんと言っても桜が咲く季節がすごく素敵です。
桜の名所として知られている中目黒ほど混雑しないので、五反田あたりから大崎までの約1.1kmの区間は特に、のんびりと花を楽しめますよ。
OAM・齋藤さん:『春だけでなく、冬にも桜を咲かせよう』ということで、毎年12月に「目黒川みんなのイルミネーション」というイベントを開催してきました(※)。
地域のご家庭や飲食店に廃油を提供してもらい、リサイクルしたバイオディーゼル燃料で発電してイルミネーションを点灯するんです。こうした住民のみなさんと一緒にイベントを作る取り組みは、もう10年続いています。
※2020年はコロナ禍により別の参加型オンラインイベントを開催
2019年には、観光船などが発着する船着き場「五反田リバーステーション」がオープン。「大崎エリアマネージメント」でもクルーズイベントを開催しており、今後さらに目黒川の楽しみが増えそうです。
また、目黒川沿い以外にも、街をゆっくり歩いてみると憩いの場が多いことに気付かされます。
オフィス街のイメージが強かった大崎ですが、今回の取材で見事にそのイメージが覆されました。大崎は街づくり団体と企業、そして住人が共に進化を歩んでいる、温かい街だったのです。
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【INFOMATION】
店名:cafe & hall ours(カフェ & ホール アワーズ)
アクセス:東京都品川区北品川 5-7-2(google map)
営業時間:平日8:00〜23:00 / 土・日・祝10:00〜22:00
定休日:カフェ営業のみ火曜日定休
取材・文:丸山 夏名美/撮影・編集:中山宇宴