二子玉川、代々木、恵比寿、麻布、乃木坂。ふたりは中目黒以外にも、さまざまな街を歩いて住環境を探っていきました。家探しで重視したのはどんな点だったのでしょうか。

1LDKで約73平米。ゆとりのある広さです。

ふたりとも仕事で遅くなることが多いので、「通勤に便利な都心」という点は最初から決めていました。まちを絞るときに大事にしたのは、住んでいて刺激を受けるわくわく感と、子育てしやすいほのぼの感。"ワクボノ" という言葉まで勝手につくってしまいました(笑)
気に入った物件を見つけたら、グーグルマップでマンション名を確認して不動産屋に連絡、の繰り返し。ひたすら地道な作業ですが、楽しみながら取り組んでいました。(知礼さん)

この物件は、複雑な形の外観と赤い屋根がまず気に入りました。ときを重ねた風合いのタイル、緑が揺れる中庭、迷路のような造り、開放感のある吹き抜け。築32年の物件とは思えないほど建具や照明にもこだわりがあって、魅力を感じました。(美智子さん)

リビングの壁一面に本棚を設置。小洒落たドアは既存で、片方を白く塗りました。白いドアの先はウォークインクローゼット。

リノベーションはリビタに、設計はPUDDLEに依頼。両社とも、以前からの知り合いでした。リノベーションではさまざまな挑戦をしようと考えていたので、それを面白がってくれることがパートナーとして重要だったと言います。

こだわったのは、既存を活かすこと。やっぱり、もともとその物件が持っている魅力を残しながらよりよくするのがリノベーションの醍醐味だなと思いまして。(知礼さん)

お風呂はユニットバス。既存を活かしたドアや戸棚がいい雰囲気です。洗面カウンターと床はタイル張りにしました。

キッチンがあったスペースをウォークインクローゼットにする際も、キッチンカウンターやタイルは残してアイロン用のカウンターと収納棚に変身させました。職人さんからは「全部取っ払っちゃったほうが安く済むよ」と言われたそうですが、既存を残すことで生まれる雰囲気や重みを優先したそう。

キッチンを改装した洗濯機付きウォークインクローゼット。キッチンのシンクは、くぼみを活かして化粧台に。元々あった個性的なキッチンタイルを活かすよう、元々は木の色だったドアや戸棚を白く塗り、ほかを黒や紺で揃えました。難しい柄なので悩んだそうですが、クールで洗練された雰囲気に仕上がっています。

実は、色々こだわっていたら、最初に出た見積もりは予算を500万以上オーバーしてしまいました。水まわりすべてを替えたことが大きかったようです。優先順位が低いものを削って、何とか予算内に収めました。例えば、フローリング材は、既製のダメージ加工品だと平米1万5千円のところ、安いプレーン材を使い自分たちでオイルを塗ると4〜5千円。これだけで50万円の削減になりました。(知礼さん)

「the shelf」にも、どの部分を削ってコストダウンしたかが記録されていて勉強になります。このサイトをつくったのも、「これから家探しや家づくりをする人に情報提供したい」と思ったからだと言います。

左・家族で会話をしながら料理ができるよう、キッチンはアイランド型に。/右・自分たちでオイルを塗ってこなれ感を出したフローリング。塗料は自然植物油のオスモカラー。「風合い、耐久性、安全性からオススメ」とのこと。

間取りは2LDKでしたが、壁やクローゼットを取り払い1LDKに。最初、おふたりは玄関横の部屋をギャラリーやスタジオとして使えるオルタナティブルームにしようと考えていたそう。プライベートな空間と外部の人が出入りする空間を分けるためです。 しかし、設計者のPUDDLEより「暮らしの中にオルタナティブルームがあったほうが面白いんじゃないか」と提案があり、キッチン奥の空間を作業場兼オルタナティブルームに、玄関横の部屋を寝室に変更しました。 確かに、空間を別にしてしまうよりもコミュニケーションが生まれて面白いですよね。"住まいづくりは実験の場" と捉えていたから、そこでの住まい方も実験してみようと思いました。(知礼さん)

写真に見えるアイランドキッチンや作業台は可動式。壁に寄せてものづくりワークショップをしたり、テーブル同士をつなげて大人数で食卓を囲んだりと可変的に空間をつくる工夫があります。

パーティー、ワークショップ、撮影スタジオ、そしてギャラリーとして、さまざまな使い方ができます。取材時には、空間にカーテンで仕切りを作り、企業インターンに参加する地方工専生の下宿先として、更に新たな活用がなされていました。将来はこども部屋としても使えます。

作業テーブルはPUDDLEの設計。中には美智子さんが製作で使う工具や材料がぎっしり! キャスターが付いているので移動も簡単、高さも変えることができます。今は、手づくり子ども服ブランドannebabyを立ち上げ、服のデザインや撮影もこの作業台で行われています。

家を開いたわけとは・・・?でも、そもそもなぜおふたりは家を外に向けて開こうと思ったのでしょう?

「家は癒しの空間」という考えはまったくなくて、家にいるときもわくわくしていたいし、創作意欲がわき上がってくるような空間にしたかったんです。(美智子さん)

せっかくお金をかけて家をつくるなら、自分たちだけじゃなくてほかの人も楽しめたほうがいいと思いました。そのほうが、自分たちもより楽しめますから。一石二鳥の資産価値、というか。 マンションってどんどんセキュリティを厳しくして外部の人を排除する方向に向かっているでしょう。高級な高層マンションにはゲストルームがあったりするけど、こういう古い既存のマンションにはそういう機能がありませんよね。だから、自分たちのスペースの機能を拡張させて、地域のハブにできたら、と考えました。(知礼さん)

リビングのカーテンは、美智子さんが大好きな美術作家の植田志保さんに作品として描いてもらいました。

アーティストとのコラボレーションも、住まいづくりの実験のひとつで、大阪まで会いに行って依頼したそう。同じく大阪にある家具屋「TRUCK FURNITURE」も訪問し、フローリングの風合いや家具選びの参考にしました。

「403L」のオープニングパーティでは、リビングのカーテンを描いてもらった植田志保さんの個展を開催。更に、オルタナティブルームのカーテンにもライブペイントをしてもらいました。パーティには30人程集まり、作品を楽しみながらお酒を飲んで語らい、とてもいい雰囲気だったそう。

オープニングパーティーでの、植田さんの制作の様子。オルタナティブルームのカーテンは、玄関からの眺めをイメージ。

植田さんが得意な淡い色合いを出しながらも、甘くなりすぎないよう依頼しました。

私自身もギャラリーで作品展を開いたことがあるんですが、畏まった雰囲気だし、来場してくれた人とはそんなに深い話もできず、その先の発展があまりなくて。もう少し気楽に、お酒を飲みながらゆっくり作家と 話せる場が欲しいなと思っていました。(美智子さん)

左上・取材時、玄関正面の飾り棚には、美智子さんが収集したノートが展示されていました。/右上・植田志保さん作のカーテン。/下・棚に飾られたミニチュアの「あっちむいてコーン」と「てるてるコーン」は、美智子さん作品です。玄関にあったものがオリジナル。ネットで販売もしています。

確かに、ここだったら家ならではの親しみやすさや居心地のよさから、肩肘張らずに話ができそう。訪れる人同士の距離が縮まって、面白いコラボレーションが生まれるかもしれませんね。

うれしかったのは、作家の方から、「海外ではホームパーティをしながらアーティストの作品を展示することが普通に行われているけど、日本にはそういう場がないからいい取り組みだね。」と言われたこと。家をアーティストの活躍の場として活用する。新しい場づくりの形になれば、と思っています。(知礼さん)

トイレはLIXILのサティス。壁紙が印象的です。手洗いボウルと、くすんだ真鍮の水栓も個性的な雰囲気。

上・小さなパーツにもこだわりが光ります。玄関の壁に並ぶシンプルなフックと、トイレットペーパーホルダーは、愛知の鉄工工場 千葉製作所の手づくり品/下・タイルは、名古屋モザイクを使用。洗面所は目地を白に、トイレと玄関は掃除のしやすさを考えて目地が黒のものを選びました。

おふたりの話を伺って、家には "暮らす場所" という機能だけでなく、"人との出会いやコラボレーションを生む場所" "コミュニティを育む場所" など、さまざまな可能性を秘めているんだなと感じました。こういう場所が街中に増えたら楽しくなりそうですね。

403L』では12月に油絵作家の個展と、写真家の個展を予定しているとのこと。気になる方は、ぜひ訪れてみてください。きっと、「私も家開きしたい!」と憧れてしまうはずです。

ーーーーー物件概要ーーーーー

〈所在地〉東京都目黒区
〈居住者構成〉ご夫婦、長女
〈面積〉約73㎡
〈築年〉築32年
〈リノベーション〉リビタ
〈設計〉PUDDLE

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