7月25日〜8月2日に長野県茅野市で開催された「小屋フェスティバル」。本記事では、ずらりと並んだ、各地の建築家や工務店、クリエーターが建てた16棟の小屋の中から、とりわけ気になった3棟をご紹介します。日本ではまだ始まったばかりの「小屋ムーブメント」ですが、新しい価値観やライフスタイルの形を提案しており、今後の展開に要注目です。


7月25日から8月2日まで、長野県茅野市で日本初の「小屋フェスティバル」が開催されました。主催は、この記事でもご紹介をしました、さまざまな家づくりのアイデアを提案するウェブサイト「SuMiKa」を運営する株式会社SuMiKa。会場は「縄文のビーナス」で一躍有名になった縄文遺跡、「尖石(とがりいし)遺跡」近くの広場です。まさに人類の小屋の原点があったような場所で、未来の新しい小屋のあり方を考える、というわけですね!

午前中から続々と人が集まってきました。東北や離島から来た人もいたようです。

フェス2日目、さっそく緑輝く夏の八ヶ岳へ駆けつけました。北側には八ヶ岳、南側には富士山をはじめ、甲斐駒ヶ岳などの南アルプスが望める絶好のロケーション。この日、都内は40度近くまで気温が上がったようですが、会場も午前中から真夏の太陽がジリジリと肌に射してきます。とは言え、木陰に入ればさわやかな風。やっぱり高原リゾートです。

左上・会場内あちこちにあった手作りの看板。/右上・入り口の小屋も手作りです。/左下・会場となった広場の後ろには八ヶ岳が。/右下・地図もどこかおしゃれ 。

さて、入り口の可愛らしい小屋をくぐると、音楽あり、出店ありでなにやら楽しそうな雰囲気。奥には各地の建築家や工務店、クリエーターが建てた16棟の小屋がずらりと並んでいます。

小屋は、増築の際の確認申請が必要ない6帖(10坪)サイズが主流のよう。リーマンショック以降、世界中で今、一大ムーブメントになっている "tiny house" の日本版と言えるかもしれません。どれも魅力的ですが、今回はこの中でもとりわけ気になった3棟をご紹介します。

まずはこれ!

シンプルな三角屋根が目印。デッキには五右衛門風呂が設置されていました 。

ひっきりなしにお客さんが訪れていた「AzitO(アジト)」。看板に「住める小屋の最小型」とある通り、なんとこの空間にキッチン、暖炉、シャワー、トイレ、3帖のロフト、テラスまで付いているんです。みなさん入るなり、「うわっ、すごい!」「これ本当に住める!」と歓声が。これで398万円から。なんとなく "マイホーム" に手の届きそうな気がしてきません?

この小屋をつくったのは、岐阜県大垣市から参加したイビケン株式会社。

左・調理器具は壁に掛けて収納。使いやすい上にかっこいい! /右上・シンクの横に簡易コンロを置けば立派なキッチンに。/右下・キッチンの隣はワークスペース 。小窓から気持ちのよい風が入ってきます。

今回は工場で組み立てたものをトレーラーで運んできたと言います。基礎から完成まではおよそ2週間。同社の西沢和浩さん(上写真=左から二人目)によると、この小屋のポイントは「ロフト、テラス、収納」。壁はどこにでも釘を打てるので、キッチン道具は "吊って収納" し、本や雑誌は、水まわりとリビングを仕切る引き戸の本棚に収納できます。

左上・床下には薪を収納していました。/右上・憧れの薪ストーブ。冬はこれ一台でかなり温かいのだそう。調理器具としても重宝します。/左上・ロフトは寝室に。天窓が付いているので、星空を眺めながら眠りにつく・・・なんてことも。/右下・ロフトから下を見下ろした図。吹き抜けの天井なので開放感が 。

さらに、高床式なので薪などは床下に。夏場は床の扉を開けっ放しにしておけば、風が通って快適です。

小屋はキットだけの販売もしていて、およそ100万円。オプションを付けなければ、安くあげることもできます。母屋の庭に建てて、書斎やゲストルームなどの「離れ」としてもいいし、ショップにもできそう。前出の西沢さんは、小屋のムーブメントについてこう話します。

若者に話を聞くと、みんな都会から脱出したがっているんですよね。でもお金がない。だったら、一昔前のような別荘は無理でも、多拠点のひとつとして、田舎に小屋を持つのもありなんじゃないかと。都会では中古住宅やマンションの借家に住み、週末は小屋。そういう身の丈の楽しみ方ってあると思うんです。(西沢さん)

気に入った場所に小屋を建て、本当に住みたいと思ったら移住してもよし。小屋住まいには "お試し宿泊" の側面もありそうですね。

さて次に目を引いたのが、ラグジュアリー感たっぷりの小屋、「KIBAKO」。

ダークな色合いが大人っぽさ満点。海辺にも似合いそうです 。

静岡県河津町浜から参加した株式会社天城カントリー工房さんの製作です。グランピングを彷彿とさせるこの大人感!

海辺のラウンジバーと言われても遜色がありません。今回は麻布十番にあるお花屋さん「Fleuriste aux cerises(フローリストオースリーズ)」とのコラボレーションが実現し、お部屋の中にはグリーンやエアープランツがあちこちに。「麻布十番のフローリスト夫妻が週末を過ごす小屋」がテーマなのだそうです。

「Fleuriste aux cerises」の中川雅臣さん(左)と、天城カントリー工房の土屋雅史さん(右)。

天城カントリー工房 専務取締役の土屋さんによると、この小屋のポイントは「移動可能」、かつ 「1日で設置できる」こと。4tトラックが入るところなら、どこでも設置できるんだとか。ロフトタイプの「ノッポ」と平屋タイプの「チビタ」があり、この 2棟を組み合わせることもできます。家族の形態に合わせて、増築したり減らしたり・・・その時々で住まいをカスタマイズできちゃうんですね。

チビタは事務所やカフェなどの店舗に、ノッポは週末の小屋としておすすめです。僕らは、小さな家1軒+小屋というスタイルを提案していきたいんです。子どもが大きくなったら、小屋をつくって子ども部屋にし、独立したら撤去したり書斎にしたり・・・。大きな家は負担になるけど、家+小屋という形なら、ミニマルだけど楽しい暮らしができると思うんです。(土屋さん)

正面は前面窓ガラスなので、開放的。広々としたデッキがポイントです 。

1階部分は6帖で、ロフトは4帖半、デッキは7帖。材木は水に強いカナダ産のウエスタンレッドシダーを採用しています。今回は内装にも外壁と同じ板を張っていますが、通常はラフな仕上げで、完成後にそれぞれDIYで仕上げるという考え方。お値段は、KIBAKO本体、ロフト、内装板張り、デッキ、テント、塗装、トップライト合わせて450万円。ちなみにオプションで手作りのアウトドアテーブル、ソファセット、ベッド、ローテーブル大小、装飾台などの家具を付けることもできます。統一感があるとさらにおしゃれですよね。

通常は板張りなしのラフな仕上げですが、今回は外壁と同じ板を貼り、より上質な空間に。

「KIBAKO」は今年始まったばかりなので、まだカフェとして1店舗あるのみですが、現在、伊豆のキャンプ場内コテージとして2棟建設中とのこと。こんなすてきな小屋がキャンプ場にあったらうれしいですよね。今後の展開が期待されます!

さて、大人っぽい雰囲気から一転、向かいには可愛らしい水色の小屋がありました。子供用の小さな玄関と大人用の玄関があり、どこかメルヘンチック。可愛らしさに惹かれて中を覗いてみると・・・。

左上・青い三角屋根がどこか外国っぽい雰囲気。/右上・大きな窓がポイント。子ども用の入り口も可愛い。/右下・子ども用の玄関はオプション。メイン玄関だけでももちろんOK。/右下・中はシンプルな空間だけに、用途はいろいろありそう。

白くペイントされた空間に、おもちゃや可愛らしいテーブルが。こちらは「子どもと遊ぶための小屋」としてつくられた小屋、「mocoYA-1」です。

本宅というのは、どうしてもママがメインになりがちなので、庭の一部などにパパと子どもが遊べる空間があったらいいなと思ってつくりました。パパは仕事や趣味をしつつ、子どもはお絵かきをしたり、犬と遊んだり・・・。あ、もちろんママと遊ぶ部屋でもOKですけど(笑)。

長野県飯田市のモコホーム有限会社マルス建築舎のスタッフの方は、小屋のコンセプトをそう話してくれました。

建築のポイントは、「子ども用の小さい玄関」と「メイン玄関の三角屋根」。写真の小屋は4帖半ですが、6帖までは大きくできるとのこと。窓の大きさやドアの数にもよりますが、基本は185万円から。子ども部屋としてでなく、ショップやワークスペースにしてもいいかも。庭にひとつあると楽しさが広がりそうです。

もうひとつ、小屋と呼べるかどうか微妙ではありますが、子どもに大人気だったのが、こちら。なんとも気持ちよさそうな畳尽くしの小屋「じゃぱみのこや」です。

いかにも風通しがよく、ゴロゴロしたくなります・・・。

建築事務所Design Pot'sの山本和之さん(左)と、宮坂畳商事の柴たかねさん(左)。

長野県岡谷市にある有限会社宮坂畳商事と、群馬県高崎市の建築事務所Design Pot'sがコラボレーションして建てた小屋です。

今回は畳を使った小屋にしたくて、建築家の山本和和之さんにお願いしました。実用性はあんまり考えていません。用途はこれから考えます(笑)。(柴さん)

そう話すのは宮坂畳商事・じゃぱみブランド室の柴たかねさん。天井も床も畳で、中には長野県産のヒノキの間伐材が使われているそう。ふすまは熊本県八代市の高級いぐさを使ったもので、すべて閉めると個室に、すべて開けるとふすま部分が縁側の壁に。このパズルのようなふすまが子どものツボにはまったようで、 みんなきゃあきゃあ大はしゃぎ。

子ども達に気に入られたのが何よりうれしいですね。今の家って畳が減ってきていますが、日本人の子どものDNAには、畳愛が受け継がれているのかもしれないなあと思いました。(柴さん)

左上・風が通る上に、畳の感触が気持ちいい。/右上・天井も畳。襖の開け具合で雰囲気が変わります。/左下・襖をすべて閉めると、秘密基地のようなこもり感にワクワク。/右下・襖が交差するジョイント部分。

ちなみに柱はすべて無垢。とにかく気持ちよさ重視の小屋です。森の中にこんな茶室があったらよさそうですよね。

さて、いくつか小屋をまわって、広場の中心部へ目をやると、何やら人だかりが? 炎天下、みんなで作業をしています。

なんと、よしずの屋根をのせる簡易休憩スペースをつくっているのだそう。

左上・よしずを使った休憩所。炎天下では日陰がうれしい。/右上・工具を使い、器用に針金を回す。/左下・針金で材木とよしずを固定していく。/右下・参加者はほとんど全員がDIY初心者。

これは、誰でも無料で参加できる「ライブ小屋ビルディング」の一環。期間中は毎日のように、こうやってちょっとずついろいろなモノが出来上がっていきます。先生は、小屋フェスの会場設営をした「グランドライン」のメンバーや、「YADOKARI 小屋部」の方々。


作業中のスタッフに聞いてみると、「工具を持つのも初めてという方もいますよ」。せっかくの機会に、私もやってみようかしら? と思いつつも、あまりの暑さに断念・・・。ふらふらといい匂いのする方へ吸い寄せられてしまいました。マーケットエリアには美味しそうなもの、可愛いものがたくさん!

左上・有限会社八ヶ岳農産のブース。色とりどりのトマトが美しい。/右上・蓼科塾がプロデュースしたUPSOUP。大人気のスープに加え、天然酵母の酒粕パンも販売。/左下・茅野駅前にある、雑貨と薪ストーブのお店、grow thickも出店。/右下・ベルギーリネンのお店、hitoharimama。色合いが素敵な洋服がずらり。

お肉、ケーキ、ジュース、野菜、サンドイッチにスープ・・・。地元、長野県に店舗を構えるお店が自慢の味を提供していました。食べ物以外にも、おしゃれなアウトドアショップや、ベルギーリネンのお店、雑貨のお店などもたくさん。

朝から夕方までゴキゲンなライブもありました。

この日の一番手は、東京からやってきたPrefab Sound Proの3人。

さらに広場のテント内では、「小屋女子計画」による「おうちバコ」バッグ作りや、ネームプレート作りなどのワークショップも。

左上・テントの下では、子どもたちが集まってなにやら真剣な様子・・・。/右上・コーンや豆などを使ってネームプレート作っていました。/左下・大人気の「おうちバコ」。東京のイベントでは大行列ができたとか。/右下・「おうちバコ」の完成図。

日本における「小屋ムーブメント」は、まだ始まったばかりですが、小屋について語るみなさんの目はキラキラと輝いて楽しそう。

「大きいものより、身の丈サイズ」「大量のモノより、質のいいものを少し」という価値観は、すでに世界的なスタンダードになりつつあります。小屋ムーブメントは、ただ単に「小屋を造る」というだけではなく、これまでの価値観から脱却しようとする思考が形になったものであり、人類が次のステップへ進む大きな流れの支流のひとつなのでしょう。

しばらく「小屋」は要注目です。

■『小屋フェス』WEBサイトはこちらから

取材・文・撮影:宇佐美里圭