気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第65弾は「浅草」です。


国内外を問わず、毎日多くの人が集まる観光名所、浅草。象徴とも言える「浅草寺」だけではなく、隅田川、ホッピー通り、花やしき、浅草演芸ホールなど様々な表情を持ちます。

この街の中で、人気上昇中のエリアのひとつが「合羽橋道具街」。料理道具・食器・厨房設備・製菓用品・陶器・漆器・包装用品など、料理関連道具がなんでも揃います。バブルが崩壊してしばらくの間、来客数が減りシャッター通りになりかけましたが、活気が蘇りました。今では合羽橋を目的に海外から訪れるファンもいるほどです。

合羽橋道具街は、浅草駅と上野駅の真ん中らへんにある。かっぱマークがアイコン。

今回は、4代に渡って合羽橋とともに生きてきた、釜浅商店の熊澤大介さんに、浅草の街の魅力についてお伺いしました。

■時代の流れで街から賑わいが消えた

僕は生まれも育ちもこの街です。お店の上が家だったので、父の仕事を見ながら育ちました。この辺りには駄菓子屋がたくさんあって、友達と買いに行ったり、路地で野球をしたことを思い出します。

お話を聞かせていただいた、釜浅商店の4代目の熊澤大介さん。お店は、今から110年前の明治41年に「熊澤鋳物店」として創業。その後「釜浅商店」に屋号が変わった。

熊澤さんが生まれるずっと前、創業から20年以上が経った、昭和初期の頃の「熊澤鋳物店」の様子。通りを挟んで、2店舗並んでいるのは昔から変わらぬ光景。(写真提供:釜浅商店)

子どもの頃の浅草は、合羽橋も含めてすごく活気がありました。今や若者も行くホッピー通りや、馬券売り場近くは大人で賑わっていて「子どもは絶対行っちゃダメ」と言われながら育ちました(笑)。合羽橋もたくさんのお客さんが行き来していましたよ。

昼から多くの人で賑わう、ホッピー通り。今では若者の様子も多く目にする。

もともと合羽橋はプロの飲食店や業者向けの調理道具、インテリア、飲食物を売るエリアです。高度経済成長で飲食業界が伸び盛りの時は、この街も自然に繁盛したのです。

ただ経済成長が止まり、バブルが崩壊すると飲食業界に元気がなくなっていきました。また、同じ頃にショッピングセンターの品揃えが豊富になり、インターネット時代に突入。以前は合羽橋に行かなければ手に入らなかったものが、近くのショッピングセンターやインターネットで済むようになったのです。

合羽橋の一つの名物でもある「サンプル品」はお土産としても大人気。幾つかのお店ではサンプル品作り体験もできる。

■ずっと守ってきた本質を伝える

飲食業界の伸びが止まり、流通が変わった頃、この街が静かになっていきました。合羽橋通りや、浅草寺の仲見世通りのお店がシャッターを下ろし始めてしまった。

そんな頃に運良く、プロではなく一般の方が合羽橋に興味を持ってくれたんです。それなのに、私たちはプロの業者さんに対応してきたので、一般のお客さんに慣れていなかったんです。お店の陳列も雑だし(笑)。ただ、誰であろうと一度ここに来てもらったからには「楽しかった!また来たい!」と思って欲しいんです。

これは活気がなくなった街にとってチャンスでした。「自分たちも変わらなければいけない」と考えた熊澤さんは釜浅商店の核となる価値や、お客さんに伝えるべきことを見直し、ブランディングに取り組みます。

良い道具には、良い理(ことわり)があります。」から始まる「良理道具」の説明から、普遍的な本質を伝えたいと言う思いが感じられる。

今は手軽な便利グッズもあるし、多くのものがネットですぐに購入できます。でも、私たちが伝えたいのはそういう簡単手軽なものではない。無骨だけれど昔からあって、廃れずに残っているものです。お客様もネットで済まさずに、わざわざ足を運んでくれているのですから。

釜浅商店のロゴのモチーフにもなっている「釜蓋」。

特に料理道具は毎日使うものです。人それぞれ手に馴染むものが違います。包丁、お釜など製品について丁寧に説明して、手に取ってもらうと「こんなに時間をかけて選ぶなんて」と驚かれる方もいます。でも商品は日々ずっと使えるもの。自分にとって特別なものを見つけて欲しいです。

一丁ずつ手に取って、じっくり吟味。これだけの本数があれば、きっと自分にとっての特別な1本が見つかるはず。

どんどん早くなる世の流れと逆行しているようですが、自分にとって最高のものを選ぶ流行に流されずに残る価値を感じます。

最高品質の料理道具を求めて、海外からもお客さんが訪れる。

■新しい化学反応が街を輝かせる

実は熊澤さん、若い頃は浅草が好きでなかったそうです。おしゃれな街が生まれ、人気が出ていく中で、浅草はずっと「下町感」が残っていて辺鄙な場所に感じられたから。でも、今になって浅草の良さを再認識しています。

最近、下町文化が残る東京の東側が人気ですよね。浅草をはじめ、東日本橋蔵前なんかも注目されています。ブームではなく、飾りっ気はないけれど本質が根付いている。そんな場所の価値が見直されているのではないでしょうか。

多くの芸人の笑いの原点となる浅草演芸ホール。

意外にもそれに気が付かせてくれるのは、浅草に新しくお店を出す方々です。私たちにとっては、住み慣れた浅草は当たり前すぎて・・・。こんな場所にお店出してもお客さん来ないんじゃないかと思ってしまう。でも実際にやってみると上手く行ったりも。

浅草は昔からある商店街、神社、アミューズメント施設、家屋だけでなく、その中に、新しいお洒落な飲食店や雑貨屋さんなどが馴染んでいます。

上:新しいお店が増えているエリアのひとつが、浅草寺の裏側「観音裏」エリア。かつて花街として栄えたこのエリアに、最近では新たにビストロやカフェがオープン。/左下:去年4月にオープンした「ペタンク」は人気ビストロのひとつ。/右下:浅草の夏の風物詩と言えば、「ほおずき市」。ほおずきが軒先に飾られているお店や家をたくさん目にする。

残るべき本質の中に新しいものが入ることで、「素敵な化学反応」が起きていると思います。

浅草を散策していると、観光客をはじめ多くの人とすれ違う。たくさんの人力車に出会うのも、浅草にいることを強く認識する機会のひとつ。

■金の龍に守られる

さらに、こんな縁起の良い話も。

浅草寺の山号(寺院の名前の上につける別称)は金龍山です。金の鱗の龍が天より舞い降りたという神話の中で、浅草寺周辺はもちろん合羽橋はその龍の通り道となったため商売にも縁起が良いと聞いています。

とある雪の日の浅草寺。都内最古の寺院である浅草寺は、多くの人から信仰されている。

シャッター通りになりかけた街に活気が戻り、繁盛しているのは守られている土地だからかもしれません。

隅田川、東京スカイツリー、ホッピー通りなどは浅草住民にとっては、見慣れた風景。

観光地のイメージが強い浅草ですが、この街には流行に流されない本質が根付き、それを守ってきた人々がいます。そこに新しい風が吹くことで、この本質的な魅力が再認識される。変わらない中で、常に魅力を更新する街、それが浅草なのかもしれません。

釜浅商店
住所:東京都台東区松が谷2丁目24−1
TEL:03-3841-9355
営業時間:10:00〜17:30
定休日:年中無休(年末年始を除く)
ウェブサイト:http://www.kama-asa.co.jp/

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