気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第73弾は「恵比寿」です。


“住みたい街ランキング” で、毎回上位にランクインする街、恵比寿。駅には4路線が通り、広尾、中目黒、代官山、渋谷など人気の街が徒歩圏内と、交通の便がとてもいい場所にあります。

ファミリーから会社員、学生や観光客など多種多様な人々が行き交う駅前。

実は、恵比寿の街としての歴史はそんなに古くありません。人がこの場所に住み始めたのは「恵比寿ビール(現ヱビスビール)醸造場」が作られた約130年前からだといいます。

今回は「ヱビスビール記念館」館長の大登(おおと)貴子さんに、恵比寿の歴史と魅力についておうかがいしました。

「ヱビスブール記念館」では、ブランドの歴史を展示している「ヱビスギャラリー」をはじめ、テイスティングサロンや各種グッズを販売するミュージアムショップも併設。ブランドコミュニケーターが案内する試飲付きの「ヱビスツアー(事前予約制)」が人気

■ビールの名前が街の名に。“恵比寿” 誕生秘話

大登さんによると、恵比寿の街の始まりは1889年、日本麦酒醸造会社(現サッポロビール)による「ヱビスビール醸造場」の誕生まで遡ります。

明治初期、お酒といえば日本酒や焼酎といった和酒がほとんどでした。やがて外国人が日本を訪れるようになってビールの需要が高まりましたが、輸入では長い船旅でビールが揺られ、劣化してしまいます。そこに目をつけた当時の起業家たちによって次々と国内生産が始まりました。一時は全国各地に150ものビール醸造所が生まれたそうです。

「恵比寿ビール醸造場」の模型を解説する大登さん

その時に生まれたブランドのひとつが「恵比寿ビール(現ヱビスビール)」でした。出資家の中に、この一帯に土地を持っている方がいて、私財を投げ打って工場を建てたそうです。

当時は「朝日」「麒麟」など縁起の良いブランド名が流行っていて、それに習って「大黒ビール」にしようとしたものの、すでに商標登録済みでした。そこで、同じ七福神の「恵比寿」に変更したといわれています。

1890年に発売された「恵比寿ビール」

「恵比寿ビール」が博覧会などで高い評価を受ける一方、その他の多くの “泡沫” ビールが現れては姿を消していきました。「恵比寿ビール」はその人気ゆえに、何度も偽物が出回ったそうです。

人気の高い「恵比寿ビール」を出荷する際、牛車や馬車では非効率でした。そこで、1901年に貨物駅「恵比寿停車場」が開設されたんです。このエリアに鉄道が敷かれたのは、それが初めてだったそうです。

周辺に住居や社宅ができて人口が増加していったことで、1906年に旅客用の駅が開業し、やがて「恵比寿」が地名となりました。この街の由来は、ビールのブランド名なんです。

地名にまでなった「恵比寿ビール」ですが、太平洋戦争の影響で一時はブランドの使用停止を余儀なくされます。深刻な物資不足のなか、すべてのビールが “配給品” として同一商標で管理・供給されたのです。

「特製ヱビスビール」として復活を遂げたのは、それから28年も経過した1971年のこと。そして戦前に評価されたように品質にこだわったビールとして、今日に至ります。

左上・1889年に完成した「ヱビスビール醸造場」。当時、周辺には畑や山林の広がっていて、民家もまばらな土地だったそう。/右上・1901年に完成したビール専用の貨物駅「恵比寿停車場」。/左下・戦時下の1943年、すべてのビールが「麦酒」として統一され、配給されることに。写真は当時のラベル。/右下・1971年、28年ぶりに復活を果たした際のポスター

■「恵比寿ガーデンプレイス」誕生で2度目の進化

時は流れて1980年代。ますますビール需要が加速していくなか、都市部にあった恵比寿工場では増設や物流、環境面の問題点が浮かんでいました。そこで、工場の移転と跡地の再開発計画がスタート。そして1994年、9万9,000㎡もの広さがあったビール工場跡地に「恵比寿ガーデンプレイス」が開業しました。

最盛期の恵比寿工場を再現した模型。左手はビール製造に不可欠な水を貯める貯水池で、春は周囲に植えられた桜が見事だったそう

今でこそ恵比寿は高級住宅街としても名高い街ですが、大登さんは「恵比寿ガーデンプレイス」開業以前の様子をこう振り返ります。

当時この周辺は、街灯もなくて夜は真っ暗で人通りも少ないような場所でしたね。でも、「恵比寿ガーデンプレイス」がオープンしたことで、明るい道を人が行き来するようになりました。

敷地内にはサッポロビールが本社を構えるオフィスビルのほか、デパートや写真美術館、映画館、緑豊かな歩道…… まさにひとつの “街” のようです。

上・敷地内の実に60%がオープンスペース。雨天でも快適に過ごせるガーデンプレイス内のアーケード広場では、本を読むひとやお弁当を食べる会社員、散歩に来た近隣の方など、思い思いにくつろぐ姿が見られる。/左下・歩道には豊かな緑が植えられ、気持ちのいい散歩道になっている。/右下・ビール工場時代に建立された「恵比寿神社」も健在

平日の日中は親子連れの方をよく見かけますし、週末は観光に来られる方が多いですね。近くにあるビール坂では毎年「ビール坂祭り」が開催されてきましたし、人工芝の上で映画鑑賞ができる「PICNIC CINEMA」など、街に人が集まるイベントも沢山開催されているんですよ。

■どんな人も、どんな気分でも楽しめる懐の深い街

では、大登さんは街の "いま” を、どのようにご覧になっているのでしょうか。

いろんな魅力が詰まった街だと思います。おしゃれなカフェやレストラン、雑貨屋さんがある一方で、恵比寿銀座通りのように昔ながらの赤提灯も残っています。

住宅街のエリアは落ち着きがあって、住んでいる人の顔が見えると思います。心にゆとりがあり、マナーのいい方が多い印象ですね。例えば道を歩いていて人とぶつかっても、お互いに謝り合うような……。都心では結構珍しい雰囲気ではないでしょうか。

渋谷のような若者の街だけでなく、広尾や中目黒、代官山のようなハイソな街にも囲まれながら、人の顔が見えるというのは「住む」視点でとても安心感があります。また伊勢丹、成城石井のような上品なショッピング施設だけでなく、100円均一ショップや商店街のような庶民的な食料品・日用品店があるのも親しみやすい要素ではないでしょうか。

左上・かつて馬車でビールを運搬していた坂、その名も「ビール坂」。/右上・街のあちこちにおしゃれな飲食店やショップが。こちらは2016年にオープンした「エビスフードホール」。/左下・戦後のバラック市場がルーツという昔ながらのアーケード商店街「えびすストア」では、魚屋さんが元気に営業中。/右下・かつてあった「山下ショッピングセンター」という商店街をリニューアルした「恵比寿横丁」。まるで居酒屋さんのテーマパークのよう。

恵比寿はまた、私たちの多様なニーズも満たしてくれます。住まいならタワーマンション、単身向けマンション、閑静な住宅街に建つ戸建と豊富な選択肢。文化を感じたければ美術館、ショッピングならセレクトショップやデパート。

おしゃれに飲みたければハイソなバーやレストラン、気軽に飲みたければ赤提灯。そして、ビールを味わいたければ、もちろんビアホール!

住みたい街ランキング上位常連のきらびやかな街・恵比寿は、あふれんばかりの魅力が集まった、懐の深い街でした。

【INFOMATION】
ヱビスビール記念館
アクセス:東京都渋谷区恵比寿4-20-1恵比寿ガーデンプレイス内
TEL:03-5423-7255
開館時間:11:00~18:00
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、臨時休館日

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