気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第64弾は「清澄白河」です。


「清澄白河」。この名前が生まれたのはごく最近の事。2000年に大江戸線、2003年に半蔵門線が開業して駅ができる時、近くにあった「清澄」と「白河」の地名を合わせてできた名前です。

この街はもともと、都心部にありながら隅田川とその支流に挟まれて、開発から取り残された地域。そんな街が注目を浴び始めたのは、2015年にアメリカ西海岸で人気のサードウェーブコーヒーの代表格「ブルーボトルコーヒー」が、日本初の店舗をオープンした時です。彼らがこの街を選んだ理由は「工場や倉庫がありながら、住宅や緑があり、高い建物が少なく、空が抜けている点が魅力だったから」と言われています。

倉庫をリノベーションした店舗であるブルーボトルコーヒー清澄白河ロースタリー&カフェ。天井が高くコーヒーの焙煎に向いている。

まさにその通り。清澄白河を散歩すると、たくさんの美しい緑水場の風景が目に飛び込んできます。それだけではありません。この街には庭園美術館歴史資料館などの文化を感じる場所がたくさんあります。また最近では、サードウェーブコーヒーに加えて、他の街にはないこだわりのインテリアや食のお店が増えてきました。下町文化を壊さないように。むしろ生かすように新しいお店や人が循環する街がここにあります。

緑が多く、川に囲まれて空が抜けている清澄白河の風景。左下は清澄庭園、右下は対岸から隅田川を挟んで清澄方面を臨んだ様子。

この街の一角にあるリノベーションアパート「fukadaso」の一階にあるのが、リカシツ。ここでは理化学の研究で使われるビーカー、フラスコ、試験管をインテリア用などとして販売しています。今回は清澄白河を象徴するような、こだわりの商品やサービスを展開するリカシツの関谷りかさんに、この街の魅力をお伺いしました。

■職人さんを受け入れる許容力のある街

私たちが営む関谷理化は昭和8年の創業で、もともと、そして今でも理化学のガラス製品を大学、研究室、病院などに卸しています。製品の中には職人さんの手作りで、細やかな技で曲げたり、膨らませたりしているのもありますが、時代が変わり彼らの仕事も、後継者も減ってきてしまいました。

私たちは職人さんに素材を卸すこともあるし、作ってもらう製品を依頼することもある。彼らはパートナーのような存在なんです。この仕事を衰退させないためにも、今まで作ってきたガラス製品を理化学以外に広げられないかと考えました。

お話を聞かせていただいた、関谷りかさん。

そこで関谷理化としては、理化学用品の特徴である「耐熱」に着目して耐熱ガラス食器を作って展示会に出してみたそうです。ところが意外なことに、お客さんが興味を持ったのは何のアレンジもしていない三角フラスコやビーカー。アレンジされていない理化学用品を、そのままインテリアに使いたいという声があがったのです。

そこで、理化学用製品を一般の方の生活に取り入れてもらおうという試みから始まったのがリカシツです。

リカシツの店舗内観。一般の生活に商品を生かしてもらえるよう、様々なアイディアでディスプレイされている。

出店場所として選んだ街は清澄白河でした。

生まれも住まいも下町。人と人のつながりが感じられる下町文化が好きなんです。清澄白河は犬の散歩コースでした。下町風情があるし、並ぶお店や工場を見て「職人さんを受け入れてもらえる街だ」と感じて、この街に決めました。

ちなみに、清澄白河の東南側である木場エリアはもともと材木問屋街。今でも街なかには材木屋が残っており、実はブルーボトルコーヒーも木材倉庫の跡地を活用しているそう。左下は、深川資料館通り商店街にある江東区公衆便所。下町感ある雰囲気が、それもまた一興。

リカシツがfukadasoに店舗を出したタイミングは、まさに運命的です。店舗の場所を探す関谷さんが街を散歩していたところ、小学校のような廊下、昔のものを生かした懐かしい装飾のfukadasoを見て一目惚れ。そこで打診したところfukadasoは満室だったにも関わらず「来月2階に1部屋だけ空きが出る」と言われたそうです。その部屋を即決してから約3年。今では一番目立つ1階に移り、緑や水を理化学用品で生かしたインテリアを展示しています。

築50年のアパート兼倉庫をリノベーションしたfukadaso。手入れすることで昔からあるものを再生するこの建物には、現在、リカシツを含めて6つの店舗が入居している。

■地元目線で街を紹介するマップ「リカサンポ」

リカシツに来る人の7・8割は女性です。人によっては2時間もひとつのビーカーをじっと眺めていたり・・・。商品その物は研究室でプロが使用しているもので、インテリア用のものではないので、どう使うかは持ち主のアイディア次第。「これ欲しいけれど、どうやって使おう」なんて思いをはせる時間は、元理系女子にとって幸せな時間なのかもしれません。

ビーカー、フラスコ、試験管と見ているだけでも懐かしく、楽しくなる店舗の様子。ここでは日々、お客さんとの会話が自然に生まれる。

リカシツでは、「何をどうやって生活のシーンで使おうか」という会話が日常茶飯事。お客さんとの距離が近く自然とコミュニケーションが生まれます。近くの美味しいランチやお勧めの見どころを聞かれることも多いそう。そこで作ったのが、清澄白河のオススメお散歩マップ「リカサンポ」です。

関谷さんが作成・配布している「リカサンポ」。

マップの作りは本格的ながら広告料の入った巷(ちまた)のものとは違い、素直に関谷さんが「良い!」と思った場所だけを載せているマップは、お客さんからも好評だそうです。「清澄白河の良いところを本音で伝えたい」そんな思いが詰まったマップです。

この辺りには下町文化を感じられる場所に加えて、こだわりのお店がたくさんあります。北海道のチーズ専門店、手作り日傘のお店、焙煎機を置く小さなコーヒー屋さん、夫婦で営む尖ったお花屋さん・・・。あげたらキリがないほど楽しい場所があるので、皆さんにも伝えたいんです。

焙煎機を置くコーヒーショップや北海道のチーズ専門店など、他にはない、こだわり派のお店がたくさん見つかる。

実は、リカシツにも新展開が。近くに「理科室蒸留所」という姉妹店が登場! どんなスポットになるかはお楽しみに。

■人と文化がつながって居心地がいい

お客様とはもちろんの事、街の人との交流が広がる街です。お店ができてから、たくさんの方と知人、友人になりました。近くのお店に行くと顔見知りになって、そこのお店の方がリカシツに来てくれて・・・。とても居心地がいい場所です。

美味しいと評判の和菓子屋「伊勢屋」や、中華料理「桃太楼」。また、清澄庭園に寄り添うようにして連なる長屋群「旧東京市営店舗向住宅」も見どころのひとつ。

この気楽な人間関係は、今回のインタビューの時間だけでも感じられました。取材の間も、関谷さんと窓越しに通り行く人が笑顔で挨拶をしていきます。

また清澄白河は、お祭りの文化も残る街だそうです。

富岡八幡宮では350年以上続く「江戸三大祭」のひとつ「深川八幡祭り」、通称「水かけ祭り」が開かれます。祭りは街の人同士のご縁ができるきっかけにもなりますし、すごく盛り上がりますよ。仕事ももちろん重要ですが、それ以上に祭りや、人と一緒に楽しむことを大切にするところが下町らしいです。

公園など、子供が遊んだり大人も集まって話をする場所が多いことも、街の人同士をつなぐ要素のひとつとなっているのだろうか。

そんなお話をしている関谷さんも、挨拶をしていく街の人たちも、とにかく皆さんが笑顔で楽しそうです。下町文化あり、緑と水あり、職人のこだわりあり、心地よい人間関係あり。とにかく居心地の良いこの街には、次にどんな人が暮らすのでしょうか。

リカシツ
住所:江東区平野1丁目9−7 fukadaso 102
TEL:03-3641-8891
営業時間:平日(13:30~18:00) 土曜、日曜、祝日(13:00~18:00)
定休日:不定休
ウェブサイト:http://www.rikashitsu.jp/