気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、第4段は世田谷区は「経堂」です。


みなさんは経堂にどんなイメージを持っていますか? 高級住宅地? 昔ながらの商店街がある場所? 農大の収穫祭に立ち寄ったことがあるという人もいれば、もしかすると、今まであまり降りたことがないなあ、という人もいるかもしれません。

そこで、この街から世界に向けて10年間(!)「面白いこと」の発信を続けている、パクチー料理専門店「パクチーハウス東京」オーナーの佐谷恭さんに、経堂エリアの魅力を伺いました。

(※編集部注:2018年3月をもって残念ながら閉店されました。)

まずは、経堂の基本情報から見てみましょう。

南北に走る商店街。「経堂まつり」では老若男女多くの人が賑わう

小田急線経堂駅。高架下にはコンビニや旅行代理店、カフェなどが入る。

小田急線の急行と準急の停車駅で、新宿・渋谷・下北沢などの大きな街からも近い便利な駅「経堂」。大型商業施設も入り、駅前は広々とした空間。そこからは、南北どちらにも長い商店街が続き、どこか懐かしい雰囲気が残っています。

南口の商店街は駅と垂直に通る「ハートフル農大通り商店街」。学生始め人通りが多く、経堂の夏を彩どるイベント「経堂まつり」では、老若男女多くの人が賑わいます。

駅の北口改札からは、総合商業施設「経堂コルティ」が直結。 駅を出て、午前中の明るい日差しの中を歩いていると、自転車に乗ったお子さん連れのお母さんたちや、顔なじみのおじいちゃんおばあちゃんと話をする商店街の店員さん、若い学生さんたちなど、笑い声や話し声があちこちから聞こえてきます。

今回お話を聞こうと向かったのは、駅の南側「ハートフル農大通り商店街」を5、6分進んだところにある「パクチーハウス東京」。10年前にオープンし、パクチー料理専門店として一世を風靡しました。レストランがあるのはビルの2階で、3階部分には、日本のコワーキング・スペースの先駆けとなった「PAX Coworking」があります。

ビルの2階の窓に見える「paxi house」の文字と、入り口にそっと置いてある看板。レストランとしては小さな目印! それでも世界中からお客さんが集まってきます。

「パクチー」は面白いコミュニティを作るためのフィルターだった!?

今でこそ、日本で知らない人はいないであろう、香草、パクチー。その名の通り香りの強いハーブで、エスニック料理に使われているのをよく見ますが、実は発祥は地中海。世界中で食べられている香草です。私もそうですが、「大好き!」という人も多いのではないでしょうか。

ここは、そんなパクチーをすべての料理にふんだんに取り入れているレストラン。日本全国、いえ世界中からもお客さんを集め、連夜予約でほぼ満員という人気店ですが、10年前に佐谷さんがこの場所に開店を決意した時は、状況は全く違ったと言います。

もともと世田谷に住んでいたので、経堂にお店を出すことを決めたんです。

今でこそ、パクチーパクチーってバカみたいにブームが来てますけどね(笑)。10年前は僕がバカだって言われてました。パクチー専門店なんて流行るはずがないとか、そんなものはレストランじゃないとか、散々いろんなことを言われましたよ。

「パクチーハウス東京」「PAX Coworking」オーナーの佐谷恭さん。お話上手で笑わせ上手!  経営している株式会社「旅と平和」という社名からもわかるように、旅に出ることの大切さを、日夜、楽しく、ピースフルに周りの人に伝え続けています。

確かに僕は飲食業の経験もなかったし、店を開くと決めてから本で色々勉強したくらいで、もともとレストランを開きたいと思っていたわけではなかったんです。

それよりも、面白い場を作りたかった。だから、普通の飲食業として、誰にでもウケるものをやろうっていう気はさらさらなかったんです。

店にかかっている “No Paxi, No Life” の垂れ幕。パクチーをキーワードに、人生が広がります。

以前は、IT企業で働いていた佐谷さん。ライブドアニュース部門の立ち上げから閉鎖までを担当し、その後自分の事業としてパクチーハウスを立ち上げることに。そのベースとなったのは、若い頃に世界中を回って旅をした経験でした。

世界中いろんなところを回って、いろんな衝撃を受けました。パクチーもそのひとつです。

日本人が好きそうなものを、日本人が好きなようにアレンジして輸入するというのは、大昔からみんなやってる。でも僕がやりたかったのは、誰もやっていないことだったし、何よりその旅に出た時の衝撃とかショックを、経験としてそのまま日本に持ってきたかったんです。それによって、生活がもっとおもしろくなるでしょ。

海外に出る若者が減り、かつてはバックパッカーで旅した人たちも、大人になって就職し、結婚し、子どもを持つことでいつしか旅に出なくなる。それなら、自分がこの場所を拠点に、旅で感じられるようなショックを与えてやろう。パクチーをひとつのキーワードとして、佐谷さんは、理想とする場づくりをはじめます。

どうせやるならお堅いくて難しいコミュニティより、飲み食いしながら楽しい雰囲気の方がいい。パクチーっていうのはそういう未体験の衝撃とかショックに対しても、「なになに?  それおもしろそう」って寄ってきてくれる人かどうか、そういうセンスがある人かどうかを見極めるフィルターだったんです。

だから店は雑居ビルの2階。パクチーを知っていても知らなくても、好きでも嫌いでも、「なんか面白いことやってそう」と好奇心と嗅覚を働かせて「上がってくる」人だけが、佐谷さんが言う「衝撃的なおもしろ体験」を味わうことができる、というわけなのです。

経堂を拠点に、世田谷近辺のお店を寄り道しながら、パーティーするように走るイベント「シャルソン」をスタート!

本人が「嬉しい誤算」と言うくらい、この10年でかなりの人気を集めた「パクチーハウス東京」。地元の人だけでなく、日本全国いろんなところから、そしてアジアをはじめ世界中から、パクチーハウス東京を目指して、多くの人が経堂に集まってくるようになりました。

壁には世界各国の写真が並んでいます。「こういう写真や張り紙を見て、何かピンとくる情報を見つけてもらうことも、うちの店に来てもらうメリットのひとつだと思ってます」と佐谷さん。

でも、そこで止まらないのが佐谷さんの魅力とバイタリティなのです。

ありがたいことに、うちの店をめがけて経堂にやってきてくれる人は増えたけど、なかなか他の店や商店街にまで立ち寄って、経堂を楽しんでくれるという人が少ない。そして経堂に住んでいる人も意外と少ないな、というのが結構、悩みどころでした。

それまで、僕個人が好きな経堂の店をお客さんに紹介したり、商店街に寄っていってね、ってことを書いて貼ったりしてたけど、なかなかうまくいかない。

そこで考えたのが、「シャルソン」という名の地域マラソン。経堂を拠点に、世田谷近辺のいいお店を回って、パーティをするみたいに走るんです。そしてそれをSNSなどでシェアして発信してもらう。これがやってみたらめちゃくちゃおもしろかった。

最初は経堂地区から始まったシャルソン。その後、参加者が自分たちの地元に持って帰りたいと佐谷さんに仕組みを聞いて、自主開催するようになり、今では、全国120カ所で開催されるイベントとなっています。

やっぱり、自分たちの地域を知るって面白いこと。僕は10年、経堂に通っていますけど、今も毎日あたらしい発見があります。それをみんながやったらいいと思うんだよね。

実は経堂のあちこちでパクチーがたくさん食べられる! 知れば知るほど面白い街が、経堂

飲食店を経営するだけでなく、飲み食いをするのも大好きという佐谷さん。経堂のお気に入りの店は「いろいろあるな〜、どこを紹介しようかな」と迷いつつ、教えてもらったのが次の3店舗です。

1軒目は、「パクチーハウス東京」と同じように、経堂から各地にカルチャー発信を続けている酒場「さばのゆ

@chie_takeyamaが投稿した写真 -

寄席のイベントを日本各地の名産品をつまみにしたり。他の地域とのコネクションもどんどん作ってますね。3・11の震災の時は、東北に行って支援をして、石巻のサバ缶詰でムーブメントを起こしたりと、地元・地域とつながる活動をしている面白い店ですよ。

あとは、普通によく食事をしてるのが、食べログでも人気の「ガラムマサラ」というカレー屋さん。確かに激ウマ。インド人がやってて、めちゃくちゃ美味しいし、面白いよ。

のかちさん(@noka_s)が投稿した写真 -

カレー屋でありながらちょっと一杯飲めるのも、お酒好きな佐谷さんのツボのよう。

ちなみに、ガラムマサラはパクチーハウスがある南側にありますが、さばのゆは駅を隔てて反対側、北側にあるお店です。

経堂って南北に商店街があるけど、うちの店がある南の方は駅から直角に道がとっているから人通りも多くて、その分、店の移り変わりも激しいんです。逆に北の方は、放射線状に道が広がっていって、どちらかというと小さくて面白い個人店が多いと思ってるんです。

駅の北側は放射状に道が広がっています。

また、パクチーハウスで仕入れた大量のパクチーを、経堂にある他の飲食店にほぼ原価で分けることもしているそう。そのうちのひとつが、タイ料理屋のソンタナ

Satoka Fujitaさん(@lhuga)が投稿した写真 -

同じ街の店同士でも繋がれたらと思って、うちで大量に仕入れてるパクチーを、仲の良いお店に分けたりもしてますよ。うちだけじゃなくて、経堂中でパクチーがいっぱい食べられるってなったら面白いでしょ。

「ここは自分の街」。大きすぎない街だからこそ、隣の人と繋がれる

どれだけ人を集めても、経堂以外で2店舗目を出す予定はない、と佐谷さん。

「パクチーハウス東京」としたのは、世界中から旅人が集まって欲しいと思ったからなんです。だから日本にも、世界にも、2号店を出すつもりはありません。

経堂の良いところは、やっぱりそんなに大きすぎない街ってところですね。地元に住んでいる人が、「ここは自分の街」っていう意識が高い。

だから大型のショッピングセンターができても、結構、自分の行きつけの店に通い続けてる人は多いんじゃないかな。

そういう意識がある人が、その店で隣り合った人と仲良くなって、また広がりが生まれる。コンパクトな街だけど、だからこそ面白いコミュニティが生まれるんだと思います。

また、パクチーハウスのオープンから2年半後に、3階にコワーキングスペースを作ったのは、パクチーハウスでの “人と人とがつながるコミュニティ” を作った実績があったから。

暮らしの中でより多くの時間をかける「仕事」に注目し、仕事場を新しくデザインしようとPAX Coworkingをオープン。当初は東京中から人が集まってきていましたが、現在では会員のほとんどが経堂在住者だそうです。

パクチーハウスの上階にあるコワーキング・スペース「PAX Coworking」は現在16名の会員が登録。雑談から新しい仕事が生まれるのもいつもの風景。見学はいつでも歓迎とのこと。

そもそも、満員の通勤電車に乗りたくないから、みんな会社を辞めてノマドになるんだしね(笑)。近くの人たちが集まってくるようになったのは自然な流れだと思います。いろんな職業の人が集まって、雑談しながら、新しいアイディアやコラボの仕事が生まれたり、面白いですよ。

経堂と聞くと、穏やかな住宅地の印象が強いかもしれません。でも実は、地域の人たちがつながり、さらには世界に向けても広がっている街、経堂。住んでいるだけでワクワクする体験が重なっていきそうです。

<パクチーハウス東京> ※2018年3月をもって残念ながら閉店されました。
すべての料理のパクチーを使った世界初のパクチー料理専門店。
パクチーを愛する人に惜しみなくパクチーを提供し、パクチーが苦手な人を克服させます。

住所:東京都世田谷区経堂1-25-18 2F
電話番号:03-6310-0355
営業時間:18:00-23:00(LO 22:00)
定休日:無休
ウェブサイト:http://paxihouse.com/

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