気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第77弾は「豪徳寺」です。
■アラウンド豪徳寺の知られざる魅力
今回降り立ったのは「豪徳寺」!
小田急線の改札を出て駅前に立つと、構内のカフェからチョコクロワッサンの甘い香りがふんわり。あーもう、いいことがありそうな予感しかしません(笑)
この街でまず特徴的なのは、小田急線「豪徳寺」と、世田谷線「山下」駅のふたつが隣接しているということ。距離にして約65m、なんとわずか徒歩1分の距離なんです!
なぜひとつの駅にならないんだ〜、という心の声は置いておいて(笑)、2路線を使い分けられるのは便利なポイントであることに間違いありません。しかもそのうちひとつは、ただいま人気上昇中の東急世田谷線です!
世田谷線沿線といえば、「松陰神社前」駅周辺におしゃれなカフェやショップが増えたことをきっかけに、気になるお店が次々と集結しているエリア。住みたい場所として狙っている方も多いのでは?
ただ人気なエリアだけあって物件があまりなく、『引っ越したいけどいい物件がないし……』というお気持ちの方も多いはず。
カウカモ的に “豪徳寺・山下エリア” が好き! という方へオススメしたいのは、小田急線沿いの周辺駅たち。こちらの地図を見ると、駅と駅の間隔が狭いことがわかります。
例えば、「豪徳寺」駅からお隣の「経堂」駅まではおよそ1kmしか離れておらず(徒歩12分)、線路沿いは道もほぼフラット。あっという間にアクセスできちゃうんです。新宿寄りの「梅ヶ丘」駅ならさらに近く、たった700mの距離!
このエリアの “隣の駅との間隔が狭い” というポイントを押さえてしまえば、視野を広げることで、より自分にフィットした物件で大好きなエリアを楽しめそうというわけです。
それでは、「豪徳寺」の街の特徴を見ていきましょう!
■「豪徳寺」といえば招き猫!
この街は「豪徳寺」の参道として栄えた歴史があります。そもそも「豪徳寺」とは、江戸時代の大老・井伊直弼で有名な井伊家の菩提寺(※)だった、広大なお寺。現在でも井伊直弼のお墓があったり、見どころの多い観光スポットなのです。
※菩提寺=先祖の墓があり、葬礼・仏事を営む寺のこと。
その由緒正しき「豪徳寺」が “招き猫” の発祥の地だって、皆さまご存知でしたか?
ここでちょっと昔話を……
昔々、鷹狩りに出かけた井伊直孝がこのお寺(当時はまだ小さくてボロボロだったそう)の前を通りかかると、門の前で住職の愛猫「たま」が、ニャーンと手招きをしたのだそうな。
何だろう? と導かれるようにお寺に入ると、そこで突然の激しい雷雨が! その招き猫のおかげで難を逃れた直孝公は、寺を立派に改築。のちに「豪徳寺」は、井伊家の菩提寺になったのでした。
■カフェ・パン愛好家が集まる街の
小さなスウェーデン菓子店
それではいよいよお店に行ってみましょう! 今回お話をうかがうのは、この街でスウェーデン菓子のお店「FIKAFABRIKEN(フィーカファブリーケン)」を営む、オーナーの関口愛さんです。
もともと、関口さんは学生時代にこのエリアで過ごされていたそうです。当時はまだ世田谷線沿線のおしゃれルネッサンス(?)は興っておらず、思い返しても『うーん、駅前だとしても、お店とか何にも無かったような……』といった印象なのだとか。
けれど、お店を構える場所としてごく自然にこの街を選んだ関口さん。そこには思い出や馴染みのある場所を選びたい気持ちに加えて、さらにもうひとつの決定打がありました。
それは豪徳寺で大人気のパン屋「ユヌクレ」の存在です。
パンが美味しいのはもちろんなんですけど…… お店の方がお客さんひとりひとりのことを覚えてくれていたり、気遣いが細やかなんです。
そこで過ごす時間そのものが素敵で、通ううちに大ファンになりました。だから自分のお店も、大好きなお店の近くで開きたいなと思って。
豪徳寺に2011年にオープンしたベーカリーカフェの「uneclef(ユヌクレ)」さん。 2021年現在では残念ながらオンラインショップのみの営業ですが、熱烈なファンが多く、衰えることのない人気なのだそう。
数多のカフェ愛好家・パン愛好家たちに『豪徳寺、ここにあり!』と知らしめるきっかけとなった名店です。そして今では、連鎖するように感度の高いお店が豪徳寺の街に増えているのです。
そうだ、フィーカしよう
そんな大好きな先輩店の背中を追うように、2016年にオープンした「フィーカファブリーケン」。ショーウインドウには、スウェーデンの伝統的な焼き菓子を中心としたメニューが並んでいます。
スウェーデンの家庭をイメージた内装は白を基調としていて、優しくリラクシングな雰囲気。スウェーデン人のお客さんからは、『まるでおばあちゃんの家に来たみたい』と言われるのだとか。
関口さんが北欧のものや雰囲気に惹かれるようになったのは、スウェーデンの大学に1年間留学したのがきっかけだったそう。
お店の名前にも入っている “FIKA(フィーカ)” というキーワードについてお尋ねすると、当時を思い起こしながら、『現地で触れてみて、すごくいいなって思った文化なんです』と顔をほころばせてお話ししてくださいました。
“フィーカ” って、なんとなく北欧のオシャレなウェブサイトで聞いたことのある言葉ですが…… お茶文化、おもてなしみたいな感じでしょうか?
お茶とお菓子が出てくるような? 出てくると言うよりは、自分でカフェに行って “フィーカする” って感じで。フィーカは、自分で創り出す時間のことなんですよ。
ただ受け身でいるのではなくて、自分で主体的に創り出すくつろぎの時間。そこでは甘いお菓子とコーヒーが、誰かとのつながり・おしゃべりを生み出す装置として機能するんですね。取材中にも地元の女性やファミリーが来店し、おしゃべりの時間を楽しんでいました。
ひとりひとりにしっかりアイコンタクトをとって声掛けされている関口さんの姿を見るにつけ『こうやって、この街ではフィーカの文化が自然と根付いていくんだろうなぁ』と、しみじみ実感。
おっとりとつながる街と人
さて、「豪徳寺」の街についてもおうかがいしてみましょう。
『街のいいところって?』と尋ねると、真っ先に関口さんが答えてくださったのは『人がみんな優しくて!』ということ。産休に入ってからは特に、地元の女性の方とのつながりをいっそう実感したといいます。
子育てグッズや本など、たくさん貸していただいて。お客さんとお店の関係だけじゃない、そんな仲のよさがある感じです。
電車が各駅停車しか停まらないからか、街があくせくしてない雰囲気がいいのかもしれませんね。 近隣だとここの目の前にあるスーパーに買い出しに来る方も多いので、目が合うと挨拶したりとか。そんな何気ない交流が楽しいんです。
なるほど〜。ローカル駅ならではのおっとりした空気感や、まわりで生きる人との交流が生まれる距離感って素敵ですね。
また、“豪徳寺・山下エリア” では、季節ごとの多彩なお祭りやイベントが行われているのも、街の空気感がよく現れているポイントだと思います。
お祭りのときには、うちは限定のドリンクを出したり、食べ歩きできるようなデザートを作りました。お神輿もみんなで担いで楽しかったですよ!
例年5月には、商店街のオリジナルキャラクター「たまにゃん」(もちろん招き猫!)をフィーチャーした、「たまにゃん祭り」も開催されています。
そのときは「フィーカファブリーケン」でも猫の形をしたクッキーを販売しているのだとか♡ 新旧さまざまなお店が結束するうえで、もしかしたら街のキャラクターそのものが一役買っているのかもしれません。
自分で創り出す、誰かとの時間
最後に、この街のなかで「フィーカファブリーケン」はどんな存在でありたいかを尋ねてみました。
フィーカはひとりではできなくて、誰かと一緒にするものなので…… そういう、誰かとのコミュニケーションを取るきっかけになる場所になれたらいいなって思います。
最初はフィーカっていう言葉自体が『?』ってお客さまも多かったんですけど、最近はケーキを買って帰るときに、『フィーカするならこれですね!』って言ってくださったりするんですよ。
そういえば、この街の言い伝えでもうひとつ思い出すのは、招き猫が小判を持っていないということ。お気付きでしたか? 一般的な招き猫と違って、豪徳寺の招き猫は手ぶらなんです。
それは、“天がきっかけやチャンスは与えてくれるけれど、それを掴み取って活かすことができるかは自分次第” との教えから、あえて小判を持たせていないのだそう。
関口さんが話してくれた “フィーカは自分で創り出す時間” という言葉と、通ずるものを感じるのでした。
それぞれがしっかりと “自分の欲しいもの” に手を伸ばしているということは、それってつまり等身大であるということ。豪徳寺の街の居心地のよさは、この辺りに秘密があるのではないかと思うのです。
住みたい! という思いと、意外と周辺もアリじゃない⁉︎ という発見をお伝えできれば幸いです。いざ、欲しい暮らしに手を伸ばしてみては。
【INFOMATION】
店名:FIKAFABRIKEN(フィーカファブリーケン)
アクセス:東京都世田谷区豪徳寺1-22-3(google map)
営業時間:12:00〜18:00 ※しばらくの間テイクアウトのみ
定休日:火曜、水曜
取材:小杉美香 / 撮影・編集:清水駿