気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第74弾は「門前仲町」です。


■神社仏閣が身近にある街

幅広いご利益をいただける成田山深川不動堂(以下、深川不動堂)。そして350年以上の歴史がある江戸三大祭りのひとつ「深川八幡祭り」を斎行する富岡八幡宮。今回スポットを当てる門前仲町は、そんなパワースポットが象徴的です。

美味しい食事処が揃う飲食街があり、古き良き “江戸っ子“ コミュニティも色濃い、下町好きにはたまらなく魅力的なこの街の素顔に迫っていきましょう。

上・東京メトロ東西線「門前仲町」駅の地上出口を出てすぐのところに、迫力のある参道入口が。/左下・ちょうど取材日は縁日で、大通り沿いの商店街にはたくさんの屋台が営業していた。/右下・“深川エリア” には運河がたくさん。駅の南側には大横川が流れていて、住民の散歩コースになっている。

東京メトロ東西線「門前仲町」駅の地上出口を出ると、そこにはもう深川不動堂につながる参道がありました。街の中心に寺社仏閣があり、飲食街を挟んで少し離れた場所にマンションが建ち並んでいるのが特徴的です。

興味深いのは、深川不動堂や富岡八幡宮が大きな公園・小学校と隣り合っていること。人々の生活の場と寺社仏閣の境界線があいまいで、なんだか神様が身近な存在であるように感じられるのです。

深川不動堂の両隣にはテニスコートを有する深川公園が。実は、かつてこの場所には永代寺という富岡八幡宮を管理する寺院があったが、明治の神仏分離令により廃寺となり、その跡地が公園として整備されたという

■参道の途中にモダンなカフェが

本日取材をさせていただく「MONZ CAFE(モンズカフェ)」は、参道の入口から高幡不動堂へ向かって1〜2分ほど歩いた場所に。土産物屋さんやお食事処など、風情ある老舗が軒を連ねる「人情深川ご利益通り」の中にあります。

参道の途中に位置する「MONZ CAFE」。ワンちゃんを連れてお散歩中の方がくつろぐ姿にほっこり

ひと目でシンプルながら洗練された設計とわかる建物ですが、こちらは古い店舗を改装したものだそう。昔からの日本建築の味わいや温かみと、現代的なおしゃれさが程よく融合していて、空間づくりへのこだわりが感じられます。

取材開始まで少し時間があったので、せっかくなので定番メニューのひとつというプリン・ア・ラ・モードとアイスコーヒーを注文。

人気メニューのプリン・ア・ラ・モードのほか、ニュージーランドで人気のオールプレスエスプレッソという薫り高いコーヒーも看板商品

大きめのガラスカップに色とりどりのフルーツ、アイス、生クリーム、そして主役のプリンがパフェのように詰まっていてとても可愛い! プリンはチーズケーキのようにクリーミーで濃厚。甘すぎずフルーツのバランスも良いので、最後までさっぱりといただけました。

■下町ならではの「昔からあるものを生かす」空間づくり

さて、ここからが本題。今回お話をうかがうのは、このMONZ CAFEのオーナー、鈴木泰一郎さんです。

鈴木さんは飲食店などの空間デザイン会社の代表をされていて、自身が運営する店舗の第一号店として、2014年にMONZ CAFEをオープン。それにしても、どんな経緯で深川不動堂の参道にお店を構えることになったのでしょうか。

クライアントの要望を受けて、これまで多くの飲食店の設計をしてきましたが、自分自身の考えを「カフェ」という形で思う存分に表現をしてみたい、と考えたんです。都内のいろんな場所を探しまわっていたら、偶然この物件の所有者さんとご縁があって。

以前この建物は、明治元年ごろから3代続いた老舗の甘酒屋さん・きんつば屋さんでした。そこで、参道で歴史を重ねてきた建物をうまく活かしながら、街の休憩所としての役割も受け継ぐようなカフェを造ろうと思ったんです。

設計では、単に昔からあるものを活かすだけでなく、新しく用いる部材にも時間が経つほどに “味” が出るようなものを吟味したそう。内装材には木や石、アイアンを多用し、参道との連続性をもたせた間口の広い入口は、東屋(あずまや)を彷彿させる気取り過ぎないシンプルなつくり。優しい温もりを感じさせます。

上・スタッフとお客さんの間に自然とコミュニケーションが生まれるように、エスプレッソマシーンはあえてカウンター側に設置/左下・アイアンを使用したドアの取手、椅子、カウンターなど全て鈴木さんのオリジナルデザイン!/右下・入り口の上には、きんつば屋さんだった頃の寄付額木札(寄付名額)が大切に飾られていた

単にコーヒーを売っているのではなく、ここで過ごす時間を提供することに意味があるのだと思います。なので、細部に至るまで考え抜いて設計をしました。

ただ品物を購入するだけではなく、それをきっかけにコミュニケーションや豊かな過ごし方が生まれる場。居心地よさの背景には、そんなお店のコンセプトがあるんですね! 後述しますが、実はこのコンセプトは街のキャラクターとも深いつながりがあります。

■お互いの顔が見えるコミュニティが、この街の魅力

深川不動堂は毎月1日、15日、28日が縁日とされています。取材日は28日だったので、コロナの流行下でも絶え間なく参拝者がいらっしゃっていました。商売繁盛のご利益があることで有名ですが、他にも心願成就、恋愛、良縁など様々なありがたい不動尊が集まっているそう。

上・深川不動堂には、一般の参拝客のほか、パリッとしたスーツを着込んだ企業の方もちらほら。/左下・すぐ近くにある富岡八幡宮。/右下・境内に展示されているお神輿は「日本一の黄金神輿」だそうで、7カラットのダイヤや2010個のルビーなどで装飾されている

同じく門前仲町の象徴である富岡八幡宮は、江戸時代から「深川の八幡様」として親しまれ、毎年夏の「深川八幡祭り(※)」は江戸三大祭のひとつとされています。3年に1度の本祭りでは53基の神輿が勢揃いするそう。

鈴木さんいわく、このエリアは、“祭のために生きている” ような熱のある方々の絆が深いのだとか。

(※2020年はコロナウイルスの流行により中止)

祭の時だけに限りません。参道、永代通り、清澄通りという狭いエリアの店主は、ほとんど知り合い同士で結束力が強い。みんな、まさに江戸っ子という感じですね。

普通に住んでいても、気取ったり格好をつけたりせずに、ありのままで過ごせるような街だと思いますよ。

例えば、定食屋さんに行けば、店主が顔を覚えてくれていて「久しぶり!」って声をかけられるとか。そのお店に行く目的は「食事」かもしれないけれど、居合わせた人と『今度集まろう』みたいなコミュニケーションが生まれる。そんな関係性が素敵なんですよ。

お互いの “顔が見える” のは、下町ならではの魅力ですね。コミュニティがしっかり形成されるので、一度門前仲町に住んでしまうと他の街に出ていかない人が多いというのも納得です。

左上・駅の周辺は、多種多様な飲食店が営業している飲食街。/右上・大人気の老舗居酒屋、「魚三酒場」には日中から飲みに来る地元客が絶えない。/左下・明るいうちから、酒屋さんで “角打ち” を楽しむ人も。/右下・老舗の和菓子屋さんもお土産を求める参拝客で賑わっていた

取材日は平日でしたが、15時ごろからオープンしている居酒屋さんもちらほら。鈴木さんによると、他の街と比べて飲食店の皆さんのコミュニケーションスキルがとても高いそうで、中には大勢のお客さんといっぺんに会話できる聖徳太子のような名物ママもいらっしゃるとか。この街ならではの魅力にハマってしまうリピーターも多いとのことです。

■門前仲町をもっと良くするために

今でもすごく魅力のある街ですし、変わって欲しくないという気持ちはあります。ただ、良いものを残すためには、変わらなきゃいけないこともあります。

私も、古くなった参道の街路灯をこの街の雰囲気に合ったデザインで作り直したり、桜祭りの照明デザインを手掛けたりしてきました。さりげないことの積み重ねなんですけど、この土地らしいパーツが集まることで、街がもっと素敵になるはずです。

お金儲けのために再開発をしたり、トレンドばかりを追いかけた街づくりは、大切な何かを見失ってしまう。新しくやってくる若い人たちを巻き込みながら、長い歴史を持つ門前仲町の良さを見直していけたらと思います。

右手の赤い街路灯は、鈴木さんがデザインしたもの。カフェ自体も街らしさを表現する1要素かのよう

人が積み上げてきた文化、下町らしい密な人間関係、住人のコミュニケーション力……。こういう魅力は、作ろうと思ってすぐできるものではなく、時間をかけて醸成されるものです。

そんな、長年かけて作り上げられてきた価値が、これからも街内外の人々を魅了していって欲しいですね。

日も落ちる頃、MONZ CAFEを後にした取材陣は、せっかくなので近くの飲み屋さんでハイボールを一杯。ジョッキを片手に、江戸から続く歴史や風情に思いを馳せました。それが、いつまでも魅力でありつづける街でありますように。


【INFOMATION】
MONZ CAFE
アクセス:東京都江東区富岡1-14-5(google map
TEL:03-6873-0835
営業時間:[月~金]8:00〜19:00[土・日・祝] 9:00〜18:00

■新店舗が戸越銀座にオープン!

ETUDE-MONZCAFE-
アクセス:東京都品川区平塚2-14-8(google map
TEL:080-7362-4636
営業時間: 9:00〜19:00(無休)

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