気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第34弾は「雑司が谷」です。
かつて都電荒川線一路線のみだった雑司が谷。9年前に副都心線が開業し、池袋・新宿・渋谷、どの街にもすぐにアクセスできるようになりました。古来から残る下町的な雰囲気の街には、副都心線開業を機に移ってきた新しい人や店が加わり、そのノスタルジックな雰囲気の中には「イマドキ感」も浮かび上がりつつあります。今回はそんな発展途上の雑司が谷で、サンドイッチとコーヒーの店「あぶくり」をオープンした嶋田玲子さんに、雑司が谷の今と “これから” を伺いました。
(※編集部注: 2018年7月29日をもって閉店されたそうです。)
■子育てと仕事を両立させたカフェ
雑司が谷霊園をいつも子どもと歩いていたんですけど、霊園の真ん中に太い道路が通っていて。その先を見ると、池袋の高層ビルとかタワマンがそびえ立ってるんですね。そのコントラストを見ると、都心にいながら都心じゃない、面白いところに住んでるなと思うんです。
雑司が谷の印象をそう語る嶋田さんは、サンドイッチとコーヒーの店「あぶくり」を経営して5年。自らが住んでいたこの街でカフェをオープンしたきっかけは、仕事と子育てとの両立に悩んだことだったといいます。
もともと自動車メーカーでデザイナーとして働いていたんですけど、車の開発ってチーム単位で動くので、子どもを産んでからはサポート的な仕事しかできなくなってしまって。それが苦痛で、でも大きな会社だったし男性の割合もすごく多かったので、働き方を変えられなかったんです。それで働き方を自分で作らないかぎりダメなんだなと思って、会社をやめてカフェをやろうと決めました。それが「あぶくり」を作ったきっかけですね。
当時から雑司が谷に住んでいた嶋田さん。子育てとの両立のためにはまず通勤時間を削ろうと、自宅のある雑司が谷で店をオープンすることを決意しました。副都心線が開業して3年後の2012年に「あぶくり」をオープン。街の変化とともに「あぶくり」の人気も高まり、今では都電沿線特集を企画したメディアにもよく掲載される、雑司が谷の看板的なお店のひとつに。
(お客さんは)やっぱり小さいお子さんを連れたお母さんが多いですね。あとこの辺りは大学が多いので女子学生の方ですとか、習い事に通っている主婦の方でも多いですね。リピーターになっていただいている方もたくさんいます。平日は地元の方がほとんどですけど、休日は雑誌とかSNSを見たり、都電散歩のついでに来ていただく遠くからのお客様もいらっしゃいます。
■ノスタルジーとイマドキが混ざり合う街
仕事も私生活も雑司が谷。そんな生活の中で見えてきたこの街の特徴は「古いものと新しいものが共存していること」だと、嶋田さんは話します。
例えば雑司が谷のシンボル、安産・子育(こやす)のご利益で有名な鬼子母神には、境内に日本最古と言われる駄菓子屋がある一方で、参道には築80年の木造建築をリノベーションして作られた「キアズマ珈琲」があります。第二次世界大戦の戦火を逃れた歴史ある建造物や街並みの中に、2008年の副都心線の開業を機にできた新しい店や文化が混ざっているのが、雑司が谷の風景なのです。
それまでは目白と池袋のちょうど間で都電しか走ってない、陸の孤島というか、不便なところだったと思うんですよね。それがこの9年で街に変化が出てきて、でもまだ開発されきっていない。そこがいいんだと思います。都会でありながら下町っぽくて、周辺に比べて家賃も安いし、ちょっとした穴場なのかなと。
鬼子母神や雑司が谷霊園から一歩入った住宅街にも路地が多く、全体的にノスタルジックな印象ですが、近隣に豊島区役所が移転し、南池袋公園ができるなど周辺はどんどん便利にもなっています。嶋田さんも休日は遠出せず、近所で過ごすことが多いそう。
街の雰囲気を活性化しているのはもう一つ、イベントの多さです。月に一度鬼子母神などで開催される手創り市をはじめ、鬼子母神通りで開催されるみちくさ市、弦巻通り商友会が主催しているのんき市など雑司が谷には多くのイベントがあり、街に人が集まるきっかけになっています。
■子どもにとって故郷になる街を
最近ようやく自分の目指すライフスタイルに近づいてきたという嶋田さん。住む・働く・子育てする、全ての基盤が雑司が谷にあることで、仕事と私生活の間に良い相乗効果が生まれていると言います。
うちは子どもが女の子なので、嫁いでこの街を出る日が来るのかもしれないなと思うんです。でもその時に戻ってくる、子どもにとっての故郷はこの街なんだなとも思うんですよね。そう考えた時にも、街全体が楽しくなれば、子ども達にとってもそれって良いことだと思うんです。そういった意味で仕事だからとか、自分の生活だからという境界線がなくなっている気がするんですよね。だからいろんなことにより主体的に取り組めていると思います。
そして、これからの雑司が谷をさらに面白い、人が集まるエリアにしていきたい。嶋田さんはそう考えています。
私が「あぶくり」を始めたことで、自分も雑司が谷で商売できるかも、ってお店を目白から雑司が谷に移された方がいて。そういう人が増えたらいいなと思っているんです。若い人たちが雑司が谷というエリアでカフェでも雑貨屋さんでも商売を始めることで、点と点、人と人がどんどん増えていって、それが繋がっていくと一つの面白いエリアになるんじゃないかと思っていて。うちのお店だけ頑張ってもなかなか人が来ないけど、面白いお店が増えることでもっともっと人が来て、住みたいとか遊びに行きたいとか思う町になるんじゃないかと思ってますね。
周りを巻き込み、人との新しいつながりを生み出して、大きくなっていく。嶋田さんのようなエネルギーこそが、発展しつつある雑司が谷の街の”これから”を創っていくのかもしれません。
<あぶくり>(※編集部注: 2018年7月29日をもって閉店されたそうです。)
住所:豊島区高田1-36-18ハウスTKA目白2F 201
電話番号:03-6912-6719
営業時間:火〜金 9:00〜18:00(L.O. 17:30)、土日祝 9:00〜19:00(L.O. 18:30)
定休日:月曜日(月曜祝日の場合は営業、翌火曜休み)
ウェブサイト:http://www.abukri.jp/
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取材・文:笹川智香/撮影:笹川智香・cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部