気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第48弾は「下高井戸」です。
新宿から京王線で10分、渋谷へも明大前で乗り換えて10分少々、世田谷線に乗れば三軒茶屋までのんびりと約20分。なのにどこか田舎っぽい印象がある街、それが下高井戸です。
駅前は、京王線の線路を挟んでほぼ東西に商店街(駅前通りと日大通り)が伸び、駅前通りの先には北口レンガ通りの商店街があり、日大通りの先の公園通りにも商店街。駅前の踏切のすぐ北側には「下高井戸駅前市場」という生鮮食料品店などが入った店舗街があり、商店街の中にも昔ながらのお蕎麦屋さんや食堂もあって、どこか懐かしさを感じさせる街になっています。
メインの商店街を西に進んでいくと日大文理学部があり、日大桜丘高校や都立松原高校もあるので、平日は学生が多く見られる街でもあります。
■この街でたい焼き屋として50年、居酒屋として35年
今回話をうかがったのは、この商店街の中ほどに3階建ての大きな居酒屋を構える「たつみ」の三代目店主、前田義朗さん。下高井戸に馴染みのある方は一階のたい焼き屋「たつみや」のことはご存知かと思いますが、メインは実は居酒屋なのです。
ここで商売を始めたのは祖父母で、1968年のことです。当時はたい焼きと甘味のお店でした。それを父が引き継いで1980年頃にたい焼きだけ残して居酒屋にしました。素人から始めたわりにはうまく行って、隣でやっていたお店がやめてしまったりということもあってお店を広げて、20年ほど前に今の3階建てに建て替えたんです。
たい焼き屋さんの歴史はもうすぐ50年、居酒屋としても35年以上というまさに地元に根づいた店。ちなみにたい焼きは夏の間は休業だそうです。
商店街の歴史はさらに古く、関東大震災で多くの人が移り住んできたことから昭和初期には商店街が形成されていたそうで、戦後も混乱が収まるに連れて活気を取り戻し、1956年(昭和31年)には駅前市場が建設されたとのこと。
駅前市場は、昔は肉屋も魚屋も八百屋も2,3軒ずつあってすごかったみたいですね。商店街もずっと昔からあって、今のスタープラザは以前はボウリング場だったり、周りからも人が集まってくるようなところだったみたいです。
住宅街がマンションになり、個人商店が大手チェーン店などに取って代わられるというのはどこの街でも起きていることですが、下高井戸でも事情は同じようです。ただ、下高井戸の商店街は、たしかにチェーン店も多いですが、大きなスーパーがどんとあるわけではなく、個人が経営していると思える店も多く、都心から離れたチェーン店ばかりの郊外とは少し違う佇まいを見せています。
■昔からいる人にとっても新しくやってきた人にとっても居心地が良い
昔からある店で、2代目や3代目がいるところはいいんですが、いないところは商売をやめて貸すことになってしまいます。そうするとどうしてもチェーン店が入って来てしまいますね。でも2代目3代目がいるところは横のつながりを作って、お店を新しくしたりもしながら続いていってる部分はあります。うちも商店街の八百屋さんや魚屋さんから仕入れるようにして商店街がちゃんと機能するようにはしてますね。
商店街が栄えた頃に商売をしていた世代の人たちが引退する年齢になった時、跡継ぎがいなければ店を貸すことになって、そうすると高い家賃を払えるチェーン店が増えていってしまう。そういうことが、東京のあちこちで起きているということにいろいろな街で話を聞く中で気付かされました。人が集まる場所であればあるほどそうで、それでどこも同じような街になっていってしまうのです。
下高井戸は、そこを商店街の2代目3代目が頑張って食い止めて、その街らしさを維持しながら新しい街を作っていこうとしている、話を聞いてそんなことを感じました。そしてそのようにしてこの街で育った人たちが街を作り変え続けていることによって、下高井戸は昔からいる人にとっても新しくやってきた人にとっても居心地のいい街になっているのではないでしょうか。
父の時代から25年くらいここで働いていて、お客さんは変わってますが、ひとりで来る50代や60代の方がいたり、ご夫婦やカップルがいたり、3階では学生さんや近所の企業の宴会があってという店の雰囲気はあまり変わってませんね。休日は家族連れが多いですけど、最近は3世代で来られる方もいたりするので、新しく来られた方も、昔から住んでる方も両方いるんだと思います。
昔からいる人も、最近引っ越してきた人も、近くに勤める人も、日大の学生さんも、誰もがふらりと寄れるこんな店を、三代目の前田さんがやり続けていられる、それが下高井戸の街の魅力なのだと思いました。
■一番じゃないからこそ普段着で過ごせる街をこれからも
そんな下高井戸に変化をもたらすかもしれないのが、京王線の高架化です。開かずの踏切の解消などの目的で笹塚ー仙川駅間で東京都が主体となって進めている高架化。計画では2022年までに高架化が完成する予定で、下高井戸駅も高架駅になる予定なのだとか。
線路が高架化されれば、駅前も再開発され、人の流れも大きく変わるかもしれません。それでも前田さんはそれを「楽しみだ」と言います。
踏切がなくなれば便利になるし、変わるのは楽しみですよ。商店街と京王で話し合って、人の流れを今の商店街に持ってこられるような形の駅作りをしてもらって、お客さんに喜んでもらえる商店街であり続けたいですね。
駅の東側、京王線と世田谷線に挟まれ少し取り残されたような区域にある二番館「下高井戸シネマ」では、少し前のメジャーと単館系作品が、封切り時よりも安い料金で上映されていました。メジャー映画も通好みの映画も気軽に楽しんで、その帰りにたい焼きで小腹を満たす。そんな、一番じゃないからこそ誰もが普段着で楽しめる街、下高井戸。
高架化で街の様子が一変したとしても、それでも下高井戸は下高井戸らしくありつづけるだろうし、10年後も20年後も美味しいたい焼きを片手に商店街で買い物をできるそんな街のままであって欲しいと思いました。
みなさんもぜひふらりと下高井戸に立ち寄って、街の雰囲気を味わってみてください。
<居酒屋たつみや 本店>
住所:世田谷区赤堤5-31-1
電話番号:03-3324-9175
営業時間:17:00~24:30(オーダーストップ 23:50)
ウェブサイト:http://www.shimotaka.or.jp/tatsumi/
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取材・文:石村研二/撮影:石村研二・cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部