中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューをさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。

今回は、神奈川県川崎市で暮らすTさんご家族(ご主人:会社員 / 34歳、奥さま:会社員/ 37歳、長男4歳)の住まいを訪ねました。設計・施工を担当したHandiHouse projectの加藤渓一さんも交えて、購入からリノベーションまでのストーリーをお聞きしました。


Tさん一家が暮らすのは、築40年を超えるヴィンテージマンション。Tさんご家族はもともと近隣に住んでいて、建築関係の仕事をされているご主人は「いつかこのマンションに住んでみたい」と思っていたそうです。

■ヴィンテージマンションでかっこよく暮らす

奥さま:私はキレイな水回りやオートロックのある家がよかったので、家を買うなら新築がいいと思っていました。正直、中古マンションにはちょっと抵抗があったんです。だから、家探しを始めたばかりの頃は特にエリアを限定せずに、タワマンや建売の戸建などを見に行っていました。

でも、主人が「新築はどれも同じに見えてしまう」と言っていて……。私もそれについては否定できなかったので、なかなか家を決められずにいました。

そうこうしているうちに息子が保育園に通うようになり、息子のためにも環境をあまり大きく変えないほうがいいのではないかと思うようになって……。私たちの前の住まいはここから数分歩いた場所だったのですが、できるだけ近隣で新居を見つけたいと考えるようになりました。

ご主人:前の家から駅まで向かう際にはこのマンションの前を通っていました。妻と一緒の時はいつも「このマンションいいなぁ。リノベーションして住んだら絶対にかっこよくなるよ」と説得するように話していて(笑)。

妻は最初の頃はあまり乗り気ではなかったんですが、言い続けているうちに、「リノベーションして、ここに住むのもアリかもね」って言ってくれるようになったんです。

Tさんたちが暮らすマンションとは世田谷美術館などを建築した内井昭蔵氏が設計し、1971年に建てられたヴィンテージマンション。緑あふれる中庭と、凹凸のある個性的な住戸が特徴の歴史的建築物です。

マンション内の物件をいくつか内見したTさんたちは、全室が角部屋で窓からの眺望や風通しがよい一室を購入。設計・施工は、ネットで見つけたHandiHouse project共同主宰の加藤渓一さんに依頼しました。

HandiHouse projectの加藤渓一さんとTさん夫妻。竣工から一年以上が経過した今でも良好な関係が続いている。

ご主人:施主と一緒になって家づくりをするというHandiHouse projectさんのコンセプトに惹かれました。せっかくなので家族でDIYに挑戦し、子どもに家づくりの思い出を残せればと思ったんです。加藤さんが同じマンション内で既にリノベーションを数軒手掛けていらっしゃったこともあり、安心してお任せすることができました。

■風と光が行き渡るひと続きの空間

ふたりから依頼を受けた加藤さんは、マンションの特徴やTさんたちの希望を踏まえた上で、空間をなるべく仕切らずに、緩やかにつなげる間取りを提案しました。

加藤さん:この部屋を最初に訪れた時、窓がたくさんあって「空が近いなぁ!」という印象を受けました。全方向から光が差し込み、窓を開ければ気持ちのいい風が入ってきて景色も抜群。この好条件を遮断したくなかったので、仕切りを設けずに約60㎡の部屋全体をつなぎ、緩やかに3つのゾーンに分けることにしました。

奥から、玄関と水回り、次がダイニング&ベッドルーム、最後がリビング&子ども部屋。ラワンの壁を境に空間を緩やかにゾーニングしている。

ホテルの一室のようなベッドルーム。来客時などはブラインドを下ろし、視線を遮ることもできる。

加藤さん:仕切りをなくして広いワンルームのようにすると部屋が広く感じられて開放感がありますが、逆にプライベートゾーンはあまり人には見られたくない時もあると思います。

そこで、ベッドルームとダイニングルームの間には腰壁を設けて、ブラインドで間仕切りできるようにしました。現在、お子さんの遊び場になっている奥の部屋とリビングルームの境目の部分は、あえて既存の垂れ壁を残し、空間にメリハリをつけました。

■イメージは思い出のパリのアパルトマン

ラワンを貼った壁と真っ白の壁とのコントラスト、ドアや壁の一部に施されたグレーがアクセントになっているTさん邸。以前ふたりが暮らしていたパリのアパルトマンが部屋のデザインの元になっているそうです。Tさんたちは雑誌やインスタから気になる画像などを見つけてはその都度ファイリング。それらをまとめたものを加藤さんに渡してイメージを共有しながら、全体の雰囲気や細いディテールを決めていきました。

奥さま:壁とドアに塗ったグレーは、私が色のトーンこだわって何度も何度も調整をしてもらったんです。おかげでフレンチシャビーな雰囲気に仕上がり、お気に入りのポイントになりました。

加藤さん:白い壁だけだと面白みがないので、部分的に色や板壁を取り入れることで空間に変化がつくようにしました。キッチン側からは白い空間が広がって見えるのですが、リビング側からはラワンの茶色い壁が続いているように見える。見る方向によって全然違った印象を受けると思います。

キッチン側からは、白い空間が広がっているように見える。

ご主人:照明が好きなので、自分の家を持ったらヨーロッパの家のようにできるだけ間接照明だけで暮らしたいと思っていたんです。だから、なるべく天井に照明を設けないつくりをお願いしました。照明を天井吊りしているダイニングも、ダクトレールを天井に埋め込んでもらい、とことん見た目にこだわりました(笑)。

正方形の大きな窓が主役のダイニング。ダクトレールを埋め込んだことで、天井もスッキリとしている。

ご主人のこだわりの照明が部屋の至るところに。ラワンの壁に取り付けたスポット照明は「Louis Poulsen /NJP Wall ロングアーム」。

■家族の思い出に残る家づくり

加藤さん:Tさん夫妻は好きなものやこだわりがはっきりしていて、リノベーションで実現したいことが明確だったので、とてもスムーズに話が進みました。タイルや水栓器具などの細かいパーツも自分たちで一生懸命調べて「こういうのはどうですかね?」と提案してくれることもあり、僕も勉強になりました。

お互いに活発に意見を出し合って、まさに一緒になって家づくりができたのですごく楽しかったです。

左:窓から遠くの景色を望むことのできる奥さまお気に入りのキッチン。こだわりの食洗機はアスコを採用。/右:調理がしやすいリンナイの4つ口コンロ。壁のサブウェイタイルはDIYで施した。

左:ヴィンテージ風な蛇口とレトロな鉄製のシンクがかわいい洗面台。左側の扉を開けるとバスルームにつながる。/右:玄関の下足棚もラワンで造作。色みの異なる板をあえて並べて使い、違いを楽しむデザインに。

実際、Tさんたちは工事が始まると毎週のように現場に足を運び、加藤さんに教えてもらいながら家族でタイル貼りや床貼り、塗装などをDIYしたそうです。

実際にDIYに挑戦中の様子。

ご主人:その時の経験が息子にとってとても印象的だったようで、「またおうちつくりたい!」って言うんです。当初願っていたとおり、家族の思い出に残る楽しい家づくりができてよかった。加藤さんには本当に感謝しています。今後も家族と一緒にこの家を育てていきたいです。

こちらは、家族揃って、壁塗装をした時の様子。

Tさん邸は、施主家族と建築家が協力し合ったからこそすてきな家に仕上がりました。家づくりは工事が完成したらそこで終わりというわけではありません。建築家から家が引き渡せれた時が新たなスタートで、そこからは家族で家を育てていきます。設計・施工の段階から積極的に家づくりに関わるとよい思い出になるのはもちろんですが、内容によってはその後のメンテナンスも自分たちの手でできてしまうという利点も。せっかくリノベーションをするなら、ぜひ家づくりのすべての過程を楽しんでください。

ーーーーー物件概要ーーーーー
〈所在地〉神奈川県川崎市
〈居住者構成〉ご家族
〈間取り〉1LDK
〈面積〉64㎡
〈築年〉築47年
〈設計〉studioPEACEsign / HandiHouse project

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