照明メーカー勤務時代、
あかりの根源に興味を持つ

「もともと造形大学の出身で、モノづくりをする人になりたかったんです。」とチナツさん。

大学卒業後、照明メーカーに就職しますが、プロダクトデザインをやりたかったものの、大手メーカーだったために希望は叶えられず、悶々としていたのだそう。

日々の仕事でお客さまから照明の相談に乗ったり、このテーブルに合う照明は、と探したり、照明について勉強したりしているうちに、照度がどうとか、反射板がどう、みたいな最新の器具とは真逆の、根源的なあかりであるロウソクの炎に興味を持ったんです。それで、キャンドルづくりの教室に通い始めました。その時はパラフィンを使ったキャンドルでした。もちろんそのときは起業するなんて考えもしなかったし、単なるOLの習い事、みたいなノリだったんですけど(笑)。

何度か通って、一通り作品が作れるようになって、人に見せたりプレゼントしたりすると、「きゃー、かわいい!」「どうやって作るの?」ととても喜んでくれて。会社ではモノづくりができなかったし、これは楽しいなと思っていたんです。でも同時に、大量生産された石油製品であるパラフィンでなく、もっとナチュラルな素材が使いたいと思っていました。

福岡にあるショッピングモールで毎月開催しているワークショップでは、季節に合わせた作品を作っているとのこと。左は節分の鬼の顔、中央は水に浮かべることのできるヨット。右はスイカのキャンドルです。

大学の頃、ゼミの先生がワラを漆喰で固めてセルフビルドで家を造る、という技法を提唱していて、そのつながりで、環境活動やスローライフの提案をしている「ナマケモノ倶楽部」というNGOの活動もしていたんですね。
ミツロウと出会ったのは、そのNGOの仲間のひとりがミツロウを輸入していたので、分けてもらったのがきっかけです。

ちょうど、ナマケモノ倶楽部の呼びかけで、「夏至と冬至の夜、2時間だけ電気を消して、キャンドルの灯りでスローな夜を過ごそう」という『100万人のキャンドルナイト』のムーブメントも大きく広がっていました。
勤めていた照明メーカーのショールームがお台場エリアにあって、東京湾を挟んだ向かいに東京タワーが見えていたんですけど、いつも夜遅くまで煌煌とライトアップされていた東京タワーが、100万人のキャンドルナイトの日に完全に真っ暗になったんですね。その様子を残業しながら見て感動し、こういうスローなムーブメントをやりたいなとも思っていました。

さらに同じNGOの別の仲間が、エクアドルからフェアトレードのチョコレートの輸入販売をしていて、「ミツロウでチョコレートの形のロウソクを作ってよ」と頼まれたので作ったら、大絶賛されて(笑)。「これ、絶対売ったほうがいいよ」といわれて調子に乗って売り始めたのが、akarizmのスタートですね(笑)。

本物そっくりのチョコレートキャンドルは、バレンタインのプレゼントにぴったり。万が一間違えて口に入れてしまっても、ミツロウは食べられる素材なので安心です。

—モノづくりがしたいという思いがあって、ヒトと出会って、自然にミツロウに出会ったというわけですね。

チナツさんが作品づくりや活動を通して大事にしていることを教えてください。

よく、ミツバチが好きだからミツロウキャンドルを作ってるんですか? って聞かれるんですけど(笑)、たまたま素材と出会って、ミツロウのことをみんなに説明するために調べていたら、ミツバチの面白い話しがいろいろ分かってきたっていうことなんです。

ミツロウは素材自体にストーリーがあります。ミツバチが花から蜜を集めるためには、まずお日様が照って、雨が降って、土に微生物がいて、植物が育って、蜜が出る花を咲かせないといけない。

その蜜をせっせと集めて、おいしいハチミツを作って、それをさらに加工してやっとミツロウができます。さらに、ミツバチが飛び回って受粉を促すことで、私たちが野菜や果物を食べることもできる。そういう大きな大きな自然界のつながりの中のひとつにミツロウがある。そういうビッグストーリーが好きなんです。

毎月ショッピングモールで開催しているワークショップには子どもたちがたくさん参加してくれるといいます。使う材料がどんなふうにしてできているのか知ってほしいから、必ず写真を見せながらミツロウができるまでを説明しているそう。

—キャンドルづくりと言うと、ロウを溶かして作るというイメージだったので、シートを手のぬくもりであたためて加工するという作り方はとても新鮮でした。

火を使わないキャンドルづくりは、場所を選ばないしお子さんでも安心してできるんです。溶かして作るワークショップも行っていましたが、熱源が必要になるし、施設によっては火気が使えないところもあります。溶かした鍋は汚れるし、ロウは熱いのでやけどに注意しないといけないし、かなりタイヘン(笑)。

シートだと、ショッピングモールの店頭でもできるし、子ども会で一気に50人に教えるということもできます。
誰でも作れるから、もっと身近に、キャンドルを灯す暮らしを楽しんでほしいと思っているんです。

"アーティストの作品" を売るのではなく、
"ロウソクを灯す時間" を売りたい

—ワークショップでも「ぜひ火をつけて楽しんでください」と言っていましたね。チナツさんが提案する、キャンドルの楽しみ方を教えてください。

アーティストなら、他の人が作れないすごい作品を作って売るのでしょうけど、私は自分がアーティストだと思っていないんです。私が作った作品を買ってくれて、3年ぐらい経って「大事に飾ってます」と言われても、うれしいけど「それじゃあロウソクじゃないし」と複雑な気分になる(笑)。

それよりも、そこそこの材料費で気軽に作れる "プロダクトデザイン" をやっていたいんですね。このシートを使って、こんないろんなことができるよ、というサンプルを見せて、それを見た人が、作りたいなと思ってくれて、作ったら灯してみようと思ってくれる。そうやって「キャンドルを灯して過ごす時間」をみんなに届けたいからロウソク屋さんをやっているんです。

電気を消してキャンドルの灯りを囲むと、電気の灯りの下とは違う、素敵な時間が流れる気がします。

電気を消して、ロウソクをつけるでしょう?
そうすると、部屋の中って照明器具だけでなくて、電気で光っているものがたくさんあることに気づきます。テレビの待機電源とか、冷蔵庫のパネルとか、あっちこっちに。一度、そういう電気的な灯りを全部オフにする徹底的なキャンドルナイトをしてみるのもいいと思います。

でもそれってけっこうタイヘンだから、日常にできることじゃない。日常に楽しむんだったら、完全に暗くしようと思わずに、部屋の灯りは間接照明ぐらいにして、そこにロウソクの灯りもプラスする、ぐらいで楽しんでいいと思います。

それと、夕暮れの時間につけるのは楽しいですよ。まだちょっと明るいけどだんだん暗くなってくる時間に、照明はつけずにロウソクだけつけて、ワインでも飲みながらのんびりしていると、だんだん日が落ちてきて、それとともにロウソクの灯りが明るく感じるようになってきます。

—なるほど。たしかに夕方、暗くなるかならないかという時間帯に、部屋の灯りをつけると、急に夜になった気がしてちょっと残念な気持ちになることがあります。時間とあかりのグラデーションを感じることってなかなかないんですよね。

あと、気になる相手とロウソクの灯りを囲むのはいいかも(笑)。黙っていても、ロウソクがついていたら間が持つんですよ。

よく、たき火を囲むと、黙って火を見つめたり、想い出話が始まったり、歌ったり、いつもと違う雰囲気になるでしょう? 火を囲む時間って楽しいんです。都会ではたき火はできないけれど、ロウソクなら囲める。

もちろんひとりでロウソクを灯すのもいいけれど、人と火を囲むと、いつもと違う関係に持っていきやすいです。

—なるほど、そんな使い方があったとは! かなり効果が期待できそうです(笑)。

あ、もちろん、夏至と冬至の夜に100万人のキャンドルナイトに参加するのもおすすめですよ。2003年からはじまったこの取り組みは、今、世界的なムーブメントになっていて、地球上に暗闇のウェーブがつながっていくんです。

—最後に、akarizmの今後の予定ややりたいことなどがあれば教えてください。

これまでに、簡単なレシピブックやミツバチの写真入りでミツロウについて説明したパンフレットを作りましたが、ちゃんとした本を出したいとずっと思っています。本が出せたら、トランクにミツロウシートと紙芝居の写真と本を詰めて、ミツロウシート旅芸人として日本を一周したいですね。書店の店頭とかシェアオフィスとか、あちこちを回ってワークショップをやって、ミツロウキャンドルをみんなに灯してもらいたい。

日本一周したら、台湾と韓国ツアーですかね。日本のハンドクラフトがウケそうだし、ごはんがおいしいから(笑)。

ほんわかとした語り口で、ミツロウの魅力や、電気を消してキャンドルのあかりで過ごす時間の楽しさを教えてくれたチナツさん。

今回ご紹介したシートはわかりやすいレシピ付きでネット通販しています。

初めての方におすすめのお試しセットは3色のシートと芯、そして基本の作り方が詳しく書かれたレシピブック付き。

現在、福岡を拠点に活動しているakarizmですが、ワークショップはお呼びがかかれば全国どこにでも出張してくれるそうですよ。

他にも、贈り物にもぴったりな創作キャンドルが充実しています。ぜひネットショップをチェックしてみてくださいね。

akarizmのネットショップで販売している和菓子シリーズ。本物の練りきりみたい!

ころんとした果実のようなフォルムの「ひだひだキャンドル」。時間の経過とともに変わっていく形と、そこから洩れ出る灯りの変化を楽しみます。

ハチミツのやさしい香りと、溶けていくにつれて表情を変えていくキャンドル。

ミツロウキャンドルを眺めていると、心がゆっくりとほぐれていく気がします。

日常のほんのひととき、キャンドルを灯し、スローな夜を。

今夜からみなさんも、気軽にはじめてみませんか?

■取材協力:『akarizm』
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