2018/02/22
憧れは1920年代のNY! 目黒インテリア通りにアンティークショップを構える店主のこだわりの住まいとは?
東京都目黒区(杉村邸)
中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回は、目黒通りのアンティーク・ヴィンテージショップ「Point No.39」・「POINT No.38」を営む杉村聡さん(30代)と奥様(30代)が暮らす、ビルの一室をリノベーションしたお住まいを訪ねました。
■リノベマンションのドアの向こうは、アメリカンヴィンテージ
インテリアストリートと呼ばれる目黒通り沿いにある「Point No.39」。
1900年代前半のアメリカの家具や自転車がにぎやかに並ぶ店内には、往時を思わせる陽気なディキシーランド・ジャズが流れています。
かつて自動車整備士だった店主の杉村聡さんが、好きだったアンティーク家具の世界に飛び込んだのは2005年のこと。いくつかのインテリアショップでの勤務を経て、2010年に「Point No.39」をオープンしました。
アメリカ家具というと、イームズに代表される1940~60年代のミッドセンチュリー家具が有名です。けれど勤務していたショップの買い付けでアメリカを回るうち、より古い時代の家具に惹かれるようになって。
一番好きなのは、1920〜40年代のデザインです。この頃はまだアメリカらしいスタイルが確立されていなくて、他国のテイストを取り入れてアレンジしていました。それが、アメリカ家具の始まりのような気がするんです。
そう語る杉村さんが奥様と愛犬おいもと暮らすのは、ショップがあるビル上階の一室。この空間も杉村さんが愛してやまない古いアメリカ家具や照明でコーディネートされ、ビルの一室とは思えないリラックスした空気が流れています。
以前は4つの和室とキッチン、水まわりから成る空間でしたが、杉村さんの希望に合わせて間仕切り壁を取り払い、オープンな1LD+Kに一新。床と天井も剥がし、躯体のコンクリート現しにしています。それゆえ天井高が約50cm高くなった室内は、明るく開放的。植物がのびのびと枝を伸ばし、どこか屋外のような雰囲気です。
前に住んでいた家は広いルーフテラスが気持ち良かったから、ここも外で暮らしているようなイメージにしたくて。床は剥がしっぱなしで凹凸があるんですけど、「外みたいでいいかな」と思うようになりました(笑)
躯体を現しにした空間はシンプルで、ともすれば無機質なほど。それを背景に、味わいを増したヴィンテージ家具や雑貨、植物のグリーンが心地よく映える空間は、杉村さんの古いものへの愛情を等身大で物語っています。
たとえばダイニングテーブルは、イギリスから移民が大量に渡ってきた時代のアメリカで生まれた「ミッション・スタイル」と呼ばれる様式。
プロの家具職人ではない移民たちが、自国の家具を真似て作ったのがミッション・スタイルのルーツとされています。イギリス家具に似ているけど、細かな装飾を省いた大ざっぱなデザイン、手斧を使った粗い仕上げなどに独特の味わいがある。
ただ、本物のミッションスタイルの家具はかなり希少なので、後の時代にミッションスタイルを模倣して作られた家具を扱うことが多いですね。このテーブルは1940年代製です。
■古き良き時代のものづくりに敬意を。当時の映画もインテリアのお手本!
僕は古いものも、かっこいいだけじゃなくて使えてなんぼでしょ、と思っているんです。
だから、直せば使える家具や自転車だけを選んで仕入れています。
買い付けた品を自らリペアし販売している杉村さん。古いけれど良いものに手を加え、次の時代に引き継いでいきたいとの思いは、自動車業界に身を置いていた頃から一貫していました。
以前は、車のエンジンや変速機を修理する整備士として働いていました。その時から「古いものを直してもう一度使えるようにする」ことが好きだったんです。
特に1980年代前半までに作られた車やバイクはすごく魅力的で、後世に残したいと感じるものが多い。外から見えないエンジンさえも造形が美しく、質感も良いんです。たとえ壊れたとしても、古くても良いものは、直せば今でも十分使えるんです。
特に、1920〜40年代は、コストや効率より「いかに良いものを作るか」で各国がしのぎを削っていた時代。だからこそ当時の家具や自転車には、今も心を捉える魅力と頑丈さがあるのだと杉村さん。
僕が特に好きなのは、1920年代のニューヨークの空気感。「アメリカ版バブル」と言われるほど、元気があった時代ですね。ダンスホールではディキシーランド・ジャズに合わせて人々が踊り、街ではお金が活発に飛び交って次々と物が商品化されていく。そんなエネルギーに満ちた時代の写真や映画を見ていると、ワクワクしてくるんです。
当時を描いた映画は、インテリアの参考にもなるんですよ。たとえばこのミラーは1960年代のものですが、古いアメリカ映画によく出てきます。
なかでも杉村さんおすすめの映画は、「華麗なるギャツビー」と「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。前者は1920年代、後者は1950年代のインテリアやファッションがたくさん登場します。
家具や内装、車・・・。その時代に撮られた映画より、最近作られた映画で当時を舞台にしたものの方が、予算をかけて再現しているから面白い。細部まで作り込まれた作品は、気持ちも入りやすいですね(笑)
■ヴィンテージ家具を取り入れるポイントは?
リノベ空間とアンティーク家具が絶妙になじんだ杉村邸。「さすがプロのコーディネート!」と唸ってしまいますが、参考になるポイントも教えてくれました。
たとえばワンルームを緩やかにゾーン分けするラグは、組み合わせるソファと同じ年代のものを選んでいます。
ラグは無難な無地を選びがちですが、あえてにぎやかな柄を合わせました。ソファと同じ年代のものなので、デザインが合うんです。
さらに、素材や樹種を合わせるのも統一感のポイントなのだそう。
テレビボードは自分で作ったものです。オークを選んだのは、当時の家具に多く使われていた素材だから。使ったのは新材ですが、年数を経たかのように木目が黒く浮き上がる塗装をしています。
ソファやイスの張り地を変えてイメージを一新する方法もおすすめです。イギリスの影響を感じるフレームに惚れ込んで購入した1960年代のアメリカ製ソファは、当初ファブリックだった張り地をブラウンのレザーに交換。木やコンクリートの空間になじむ佇まいに仕上がりました。
■家具と照明はセットで考える。「ヴィンテージ家具に似合う照明」をオリジナルにデザイン
家具をアンティークでそろえると「照明が浮いてしまう!」といったことも起こりがちですが、鉄や真鍮が味わい深い杉村邸の照明は、古い家具によく似合うものばかり。すべて杉村さんがオリジナルでデザインし、販売する商品です。2012年には、照明専門店の「Point No.38」も同じ目黒通り沿いにオープンし、家具と照明をトータルで提案しています。
最初は古い照明をリペアして販売していたんですが、数がそろいにくいし「照明は新品がいい」というお客さんも多くて。
かといって古い家具に合う照明を探すと、アンティーク塗装を施した「古っぽいもの」が多いんです。それはなんだか違うなと思って、自分でデザインを始めました。
照明器具のパーツは、コンクリートや木などさまざまな内装に合いやすい真鍮を使用。イメージに合うものが国内ではなかなか見つからなかったため、ウェブサイトで探し当てたアメリカのメーカーから取り寄せているそう。
日本では、今すぐ売れるものしか作らないんでしょうね。それに逆行したい思いがあって、手間はかかりますが納得できるものを取り寄せています。
真鍮パーツはピカピカの状態で届くんですが、時間がたって変化したような表情にするために表面を薬品で酸化させています。一般的なクリア塗装より手間もコストもかかるんですが、こういう表情のものを作りたかったから。
室内のあらゆるものが思い入れに満ちた杉村邸。古き良き時代、当時の作り手への愛に満ちた物選びが、心地良い空気を紡ぎ出していました。
ーーーーー物件概要ーーーーー
〈所在地〉東京都目黒区
〈居住者構成〉ご夫婦
〈間取り〉1LDK
〈面積〉69㎡
〈築年〉築51年
>以前、杉村さんをゲストに迎えてトークイベントを開催させていただいた時のレポートはこちら
目黒インテリア通りは、もともと外車通りだった…!? 「はだかの目黒。〜目黒暮らしのリアル〜」[イベントレポート]
取材・文:石井妙子/撮影・編集:國保まなみ(写真一部提供:Point No.39)