肉は肉屋に、魚は魚屋に、野菜は八百屋に・・・なんて方、最近はあまりいないかもしれません。

少し大きめのスーパーに行けば揃わない食材はないし、コンビニでも生鮮食品を扱う店舗も出てきました。

店頭では季節によって左右されることなくほぼすべての食材が通年で並び、不便や不満を感じることはほぼありませんよね。

でも、今回ご紹介したいのは “八百屋” なんです。

旅する八百屋「青果ミコト屋」の鈴木鉄平さん、山代徹さんにお話をうかがってまいりました。

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写真左から、山代徹さん、鈴木鉄平さん。とっても気さくなおふたりは高校時代の同級生。

ちょっと変わった八百屋「青果ミコト屋」

「青果ミコト屋」は、普通の八百屋とは少し違っています。

一般的な八百屋は、市場で行われる “競り” で野菜を仕入れますが、ミコト屋は日本各地の農家から直接、自然栽培を中心としたおいしい野菜を仕入れています。

そして販売の方法もほかとは少し違っていて、お店を構えて野菜をずらりと並べるのではなく、セットを組んで各家庭に定期宅配を行ったり、飲食店に卸したりというスタイル。全国各地で開かれるマルシェやイベントにも数多く出展しています。

2010年に青果ミコト屋としてサービスを開始してから、この運営方法は変わらないのだと言います。

ーなぜそのようなスタイルの八百屋を始めようと思ったのですか?

始めから八百屋になりたいと思っていたわけではなくて。持続可能な生活がしたくて、ファーマーになろうかと思ったんです。(鈴木さん)

ファーマーから八百屋に。流通から変化を望む

ーそうなんですね! ファーマーですか・・・。そしてなぜ今は八百屋に?

農業について学ぼうと、知り合いに紹介してもらった千葉にある自然栽培をしている農家さんのもとで1年間修行をしました。出荷作業の合間に畑仕事をさせてもらい、自分が蒔いた種が野菜になるまでの過程から多くのことを学びました。

そしてある朝、農薬や肥料も使わず大切に育てた野菜をトラックに積んで市場に行くと、見栄えだけで判断されてしまって、言い値の5分の1の価格までたたかれるんです。そうやって市場に流れた野菜は、誰がどうやって育てているというのは関係なく、ほかの農家で育てられたものといっしょくたにされ出荷されていきます。

そんな具合だから収穫して出荷すればするほど、赤字になることもあります。そんな時は収穫はせずにトラクターを入れて畑をつぶしてしまうことも(鈴木さん)

ーえ!? そうなんですか?

見た目よりもおいしさを追求して、食べる人や環境のことを考え、農薬や肥料を使わずに育てた野菜が、逆に生活を圧迫するなんて報われないにもほどがある。ならば、農薬でも何でも使って、規格に合わせた野菜を出荷しようと思うのも仕方ないと、農家さんの現実を間近で見て、そう思ったんです。

実際に農薬や化学肥料を使っている農家さんも、本当は使いたくないと思っている人がほとんど。一般に流通させスーパーに並ぶ野菜や果物は、厳しい規格をクリアしたもののみ。曲がっていたり、キズが付いていたり・・・という規格外の野菜は一般の流通に乗らず、ほとんどが廃棄処分となります。それゆえ、農家さんは農薬や化学肥料などを使用してでも、生計を立てるためには規格の揃った野菜を育てなくてはいけないんです。(鈴木さん)

ー・・・なるほど。

おいしく育った野菜でも、形やサイズにバラつきがあると流通には乗らないのです。

もちろん、色やかたちが、おいしい野菜の見分け方にもなりますが、ただ自然界において、不揃いなことは当たり前のこと。需要があるから供給があるように、消費者が色やかたち、見た目のきれいなものを求めるから、農家さんはきれいな野菜をつくり続けなければならないという循環に。

野菜のかたちは違って当然。ちょっとくらいの虫食いも気にしないよ。という気概が消費者サイドに芽生えれば、農薬の使用料も減らせるはずです。そうなれば、流通にのる野菜の規格も変わってくるかもしれません。(鈴木さん)

ーうんうん。確かにそうかもしれません。

そして、農家さんは自分が育てたものを誰が食べるのかなんて絶対に分かりません。それは消費者にとっても同じこと。最近スーパーなどで顔写真付きの野菜を見かけますが、それで消費者は何を思い描けるのか。

農家さんだって、誰が食べるのか分かれば、もっと自分が出荷する作物に対して責任を持つことができるでしょうし、自分たちが食べるものだけ農薬を使わないなんてことはしないと思います。そして何よりも、消費者のリアルな声が直接届いたら、この上ないやりがいになるはずです。

こういった問題を解決するには、農家さんだけではなく、消費者、そしてその架け橋となっている流通が変わらなければならない。それが、ぼくたちが八百屋になろうと思った理由です。(鈴木さん)

仕入れる野菜を選ぶ基準は、農家さんの「想い」

家庭に宅配されている野菜の一例。スーパーに並んでいる野菜とはちょっと異なる様子。どれも立派に育っていておいしそう!

ミコト屋の定期宅配にて各家庭に届く野菜は、日本全国に広がる100を超える農家さんから仕入れています。その野菜の多くは自然栽培のもの。

少し話が脱線しますが・・・、ここまで “自然栽培” という言葉を使ってきましたが、実は自然栽培にはきちんとした定義はないのだそう。

あくまでぼくたちなりの捉え方になりますが、自然栽培とは野菜や土が本来持っている力を最大限に引き出し、農薬はもちろん、肥料すら使わずに作物を育てる栽培方法です。そのため、野菜は自分を自分で守る力を身につけます。肥料を与えない代わりに、自ら深く根を張り、養分をとる力を増していくんです。

そして、自然栽培で育てた作物から種を取っておいて、またそれを植える、を繰り返していると、その土地に適した種へとどんどん変化します。(山代さん)

ーシンプルな栽培方法な分、きっと大変な栽培方法なのでしょうね。

ミコト屋も開業当初は自然栽培に強いこだわりを持って、産地や生産者を選んできました。自然栽培以外は扱わない。それがミコト屋のこだわり! という時期もありました。でもそんな中、産地を巡る旅に出ると、本当にいろんな農家さんがいるということが分かりました。

農家さんと直接向かい合い、畑を見ていろんなお話をうかがうと、その人柄や作物に対する想いなどが伝わってきて、新たに挑戦をする姿や、悔しいけど断念しなければいけない姿など、それぞれにいろんな試行錯誤がありました。

ぼくたちが野菜や果物を選ぶとき、一番大切にしているのは、そういった農家さんの野菜に対する「想い」の部分。野菜も畑も、人柄も、全部知ってその上で確かなものを選ぶたい。そう思うからこそ必ず産地を訪ねています。(鈴木さん)

全国各地に広がる農家さんのもとへ訪れる際は、キャンピングカーで移動をしているのだそう。

自宅においしい野菜が届く、ミコト屋の定期宅配サービス

ーミコト屋の定期宅配を利用しているのは、どんな方々が多いんですか?

20代から4,50代の方までバラバラです。こういった宅配サービスって富裕層の方が利用されるイメージがあると思うんですけど、そんなことはありません。

スーパーで売られている価格よりも高いですが、ぼくたちはそれを「高い」とは思いません。適正の価格だと思っています。(山代さん)

宅配のセットは「SS・S・M・L」の4セットから、配送の頻度は「月1回・月2回・毎週」と、自身の生活に合わせて選ぶことができます。

初めて利用をする方のための「お試しセット」も用意されているため、ちょっと気になる・・・という方は、実際においしさを体験してみるのもいいですね!

農家さんから届いた野菜をひとつひとつ荷詰めして、各家庭に配送される宅配セット。毎回何が届くのか待ち遠しくなってしまいそうですね。

ー実際に利用されている方から寄せられた、印象的な言葉などはありますか?

ミコト屋の拠点からほど近いあざみ野やたまプラーザあたりのエリアには、自分たちの手で配達をしていて、玄関先でお客さんと話をしたりするんですが、野菜嫌いの子どもが「お兄ちゃんが持ってきた野菜はおいしい」と言って食べてくれたという話を聞いたり、配達を始めた頃はまだ小さかった子どもたちが大きくなって配達を待ってくれていたり。そういった声はうれしいですね。

これからも利用者と直に触れ合える機会は大切にしていきたいし、続けていきたいと思っています。(鈴木さん)

ーこれからミコト屋としてやっていきたいことや、最新のニュースがあれば教えてください。

ミコト屋の軸は野菜の定期宅配なので、それをもっと強化していきたいと思っています。例えば、セットにした野菜をおいしく食べるためのレシピを作って同梱して送るとか。よりよいサービスにしていきたいですね。(鈴木さん)

ー楽しみにしています! 本日はありがとうございました。

農家さんがそれを口にするわたしたちのことを考えて、大切に育てた野菜たち。ぜひ一度味わってみませんか?

想いが詰まったおいしい野菜で、お腹も心も満たされること間違いなしです。

取材協力:青果ミコト屋
HP:http://micotoya.com/
Facebook:https://www.facebook.com/micotoya/