気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第63弾は「早稲田」です。


“早稲田”と聞いて多くの人が思い浮かべるのは「早稲田大学」ではないでしょうか。今回取材した東西線早稲田駅周辺の早稲田エリアはそのイメージ通り早稲田大学の早稲田キャンパスと戸山キャンパスのある場所で、学生向けの飲食店も多く並びます。

しかし早稲田には昔から多くの人が住み、活気のある商店街も多く、暮らしやすい街としての顔もあるのです。今回は、早稲田で生まれ育ち、自分自身が食べておいしかったものだけを集めた食料品店「こだわり商店」を経営する安井浩和さんに、住む街としての早稲田の魅力を伺ってきました。

■人情の町、新宿・早稲田村

早稲田は新宿区の中でも山手線の内側、かなりの都会に位置します。しかし実際に降りてみると、あまり都会の雰囲気を感じません。その理由はまず緑が多いこと。早稲田大学構内も自由に出入りできるほか、広い芝生でピックニックができる大隈庭園やかなり立派な日本庭園である甘泉園公園、子連れに嬉しい施設の多い戸山多目的運動広場戸山公園など、いろいろな目的ごとに楽しめる公園があります。

大名屋敷跡につくられた、回遊式庭園でもある甘泉園公園。

戸山多目的運動広場。右側の広場では、小学生であれば、野球やソフトボール、サッカーができる。

このあたりは新宿区早稲田村なんて言われるくらい、森が多くて木が多いんですよ。大隈庭園にはハクビシンがいるんじゃないか、なんて言われるほどです。桜の季節の神田川もきれいですよ。特に都電から眺める景色がいいって、春の都電はいつも満員です。

そう教えてくれたのは「こだわり商店」を経営する安井浩和さん。安井さんは生まれも育ちも早稲田。小さい頃から住むこの街について、こんな風に語ってくれました。

お話していただいた安井浩和さん。豊島区と都電荒川線沿線のまちを面白くするまちづくり会社「都電家守舎」の取締役も務める。

上:早稲田大学の敷地内にある「大隈庭園」。手入れが行き届いており、天気のいい日はお弁当を食べたり、日向ぼっこしたり、家族連れで訪れるなど多くの人で賑わっている。/左下:都電荒川線早稲田駅。/右下:都電から眺める神田川は、特に春がおすすめ。

位置的には都会ですけど、下町の風情があると思いますね。僕は3歳から実家のスーパーを手伝っていたからでもあると思うんですけど、近所の人はみんな「ひろちゃん」って声をかけてくれて。小学生のときに自転車事故にあって、道端で気絶していたことがあったんですけど、その時最初に見つけてくれて声をかけてくれたのもお客さん(笑)。今も歩けば数メーターおきに声をかけてくれます。

■自分の足で見つけた商品ばかり “こだわり” の詰まった店内

実は安井さんのご実家は、直営3店舗・テナント8店舗のスーパーを経営していました。しかし安井さんは三代目として引き継いだそのスーパーを全店閉店し、2009年に現在の「こだわり商店」をオープンしたのです。

大隈講堂前から都電早稲田駅に向かって続く、大隈通り商店会にオープンした「こだわり商店」。実は、雀荘の跡地をスーパーにしたという、とても早稲田らしいエピソードも(笑)

生産者と直接やりとりできるようにしたくて、全国の生産地を巡って自分自身が食べておいしかったものを集めて今の店を始めました。実は開店前はほかの地域でお店を始めることも考えていたんですが、昔からスーパーに来てくれていたお客さんに「あんたのおむつは私が替えたのよ、それを忘れちゃいけないよ」と言われて。早稲田には恩がたくさんあるから、やっぱり早稲田から出ちゃいけないなと思いましたね。

現在取り扱われている品物は安井さんの思い入れのあるものばかり。特にお魚は石川県珠洲市の漁港近くでスーパーを経営しているお友達から直接送ってもらったもので、築地を経由するより一日早く届くという鮮度が自慢だそうです。

野菜は群馬県伊勢崎市、山形県鶴岡市、佐賀県唐津市の生産者を中心に取り寄せたもの。

お肉は高知県四万十市の鶏肉と秋田県横手市の豚肉が並ぶ。

ほかにも生産者さんと一緒に商品をつくる、オリジナル商品もあります、バーコードがついてないのがそれです。引っ越してしまった人が「どうしても食べたいけど見つからない」と言うので特別送っていたんですけど、ついにこの間耐えられなくて大阪から早稲田に戻ってきちゃったんです(笑)。

うちの店は仮に早稲田大学全体が大型スーパーになったって、むしろ人が増えるから売り上げが上がるような店にしたいという気持ちでやっています。

今年2月には店舗の向かいに、食材をおろした飲食店「都電テーブル」もオープン。取材したのは大学の春休み期間でしたが、すでに多くの人が利用していました。

都電テーブル向原、都電テーブル雑司が谷に次ぐ、3店舗目としてオープン。

■「子育てするなら早稲田でしょ」を目指す商店街

実は筆者も学生時代(10年近く前)都電早稲田駅周辺に住んでいたのですが、夜は騒ぎたい学生は高田馬場まで行ってしまうため意外と静か、しかし大学には24時間オープンのパソコン室などがあるためかほどほどに人がいるので治安面も安心、スーパーに行くと高齢者の方も多く、昔から人の住んでいる街なのだなと感じた記憶があります。そして今回改めて歩いていると、当時以上にスーパーやマンションも増えたせいか、親子連れの姿も多く目にしました。

上:高田馬場から早稲田へ向かう途中にはスーパー三徳が。/左下:早稲田駅周辺にも、三徳やイトーヨーカドー食品館などがあり、買い物に便利!/右下:取材中、小さな子ども連れのお母さんも多く見かけた。

しかし安井さんのように昔から住んでる人はともかく、新しく住む人もそのコミュニティに入っていけるのでしょうか?

例えば僕の店では、来てくれたお客さんと会話をしないことがない。お客さんにも子どもがいるとわかったら、自分の子どもの話をしながら相手のお子さんのことも聞いたり、自分のプライベートを切り売りしながら商売してるようなもんなので(笑)。そしてそういうお店はうちだけじゃなく、このあたりに多いと思いますよ。

こだわり商店では、社会教育の一環で、地方から来た修学旅行生の販売体験を行っており、この日も福井県から中学生が訪れていた。

そして商店街でも活動している安井さんは、「子育てするのになぜ早稲田でしないの」と言われる街を目指しているそう。

早稲田って、救急対応の病院が周りに多かったり、もともと子育てに向いている街だと思うんですよ。それでさっき話したような地元の人とのつながりが、自分だけ、自分の子どもだけのものじゃ寂しいな、子育てを楽しくできる街にしたいなって思ったんですよね。なので広義な意味で地元の子どもを守っていく取り組みを始めました。

例えば、3.11が近くなるとうちの店で東北の野菜を売っているんですが、これまでは農家の人も来てもらって一緒に売っていたんです。それを野菜だけうちに売ってもらって、販売は地元の小学校の希望者に任せるようにしました。そして販売をしたら、賃金の代わりにこの地域だけで使える通貨を渡したんです。そうするとその子たちはこの地域で買い物をしますよね。

それを何回かやっているうちに店の人が顔を覚えて、その子に声をかけるようになる。そうやって会話が増えたら、親も子どもも絶対楽しいし、地域の目を増やしていくことが子どもの安全につながると思うんです。

その他にも学ラン高下駄というバンカラスタイルで早稲田大学の中でも有名な応援部に、地域の小学校の体育祭の応援に来てもらうなど、この街ならではの取り組みも商店街では今、検討されているそうです。

■目指せ、引っ越したくない街No.1

地域への思いを熱く語ってくれた安井さん。これから早稲田の街をどんな街にしていきたいか改めて伺うと、こんなお返事が返ってきました。

(これから)住みたい街じゃなくて、引っ越したくない街を目指しています。これって自分の店にも言えることなんですけど、今いる人たちに満足してもらわないと、何も始まらないと思うんです。だからうちのお店は通販もやめました。今住んでいる人が「早稲田に住んでてよかった」と思える街にしていきたいですね。

こだわり商店
住所:新宿区西早稲田1-9-13
TEL:03-3203-5801
営業時間:[平日]10:00~21:00、[土・日・祝]10:00~19:00
定休日:日曜日