気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 第70弾は「池袋」です。
編注:本記事は緊急事態宣言の発令前に取材を行っています。
■“遊びに行く街” というイメージは、もう古い!
8つもの路線が乗り入れる巨大ターミナル、池袋。大型商業施設が建ち並ぶ繁華街なので、“乗り換えの街” や “遊びに行く街” というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。
ところが、『SUUMO住みたい街ランキング2020 関東版』では、中目黒を押さえて8位にランクイン。さらに『2020年 首都圏版LIFULL HOME'S住みたい街ランキング』の「借りて住みたい」部門では、4年連続で1位に輝いています。
いま、“住む街” として池袋がとても注目をされているのです。
その中心地となっているのが、東口エリアに位置する「南池袋公園」。かつては治安が悪く、人々が寄り付かない公園でしたが、2016年春、広々とした芝生にお洒落なカフェがある開放的な空間に生まれ変わりました。
今日では、子連れの家族がピクニックシートを広げ、ランチ時にはサラリーマンがお弁当を持って集まる憩いの場となっています。そんな居心地の良さが周辺にも伝播して、一帯は「住みたい」場所へと変わっているというのです。
では、池袋の街はどのようにして進化を遂げたのでしょうか。魅力的な公園の日常づくりを牽引している株式会社nestの青木純さんと、幼い頃から南池袋公園の近くに住んできた平和堂薬局の宮副(みやぞえ)信也さんにお話を伺いました。
■地元民もビックリ! 南池袋公園の劇的な変化
池袋に「住む」イメージができるようになってきたのは、ここ数年のこと。リニューアル以前の南池袋公園一帯はどのような雰囲気だったのでしょうか。
青木さん:池袋エリア全体が治安が悪いイメージがありました。少し辛い歴史もあって。歴史的に見ると、太平洋戦争時、公園のあたりは根津山(ねづやま)と呼ばれていて、空襲犠牲者の仮埋葬地でした。そのことは忘れてはいけない。それに、戦後の池袋といえばヤミ市。このあたりには巣鴨プリズンもありました。
宮副さん:私が幼いころ、この公園は木が生い茂っていて外からは見えにくく、不良がたむろしていたり、ホームレスがたくさんいたり、一般の人は近寄りがたい場所でしたね。
青木さん:デパートができていって、巣鴨プリズンのあった場所にサンシャインシティが建ち、線路も整備されて乗降者数世界第2位(※)のターミナル駅になりました。でも、あくまで「目的を持って行く」場所であって「住む」場所ではなかったんですよね。
※2018年時点、乗降車人数はギネス世界1位に登録されている新宿に次ぐ第2位(直通運転による通過人数を除く)。
青木さん:子どもの頃、池袋に住んでいるって友達に言ったら蔑(さげす)まれましたし……。
でも、「汚い」「暗い」「怖い」イメージの池袋にも、当然生まれ育つ子どもたちがいます。どうすれば住んでいる人が誇れる街にできるか、と考えて出た答えが『子どもたちが過ごしたいと思うような場所作り』だったんです。
その活動の一環が青木さんがかかわった南池袋公園のリニューアルオープニングイベントや「IKEBUKURO LIVING LOOP(イケブクロ リビング ループ)※」という、公園と池袋駅東口グリーン大通り全体を過ごしやすくするプロジェクトです。
※IKEBUKURO LIVING LOOP
「都市を市民のリビングへ」というコンセプトで年に1回開催している、街ぐるみの大型イベント。南池袋公園や、池袋東口から雑司ヶ谷へ至るグリーン大通りの歩道脇にハンモックやファニチャーが置かれ、こだわりのマルシェやワークショップが並ぶ。このほか、毎月第3週の週末に園内で「 nest marche」というマルシェの開催も企画運営。
宮副さん:私はしばらく東京を離れていて、3年ほど前に戻ってきたんです。そうしたら、池袋が大きく変わっていて驚きました。特にこの公園は、子連れのファミリーが長く過ごしたくなるような、魅力的な場所に変身していたんです。京都出身の妻もとても喜んでいましたよ。
いまの南池袋公園は、子連れの家族がたくさん集まり、遊んだり、芝生に寝転んだりしていて、笑い声が絶えません。芝生を傷つけないために、ベビーカーが芝生エリアの外側にきちんと並べられているところも、集まっている人のマナーの良さを感じます。
■地元の仲間が生み出す「未来の日常」
青木さん:2016年に公園がリニューアルされたとき、お披露目のイベントが開催されたんです。当初は来賓を呼んで形式的にテープカットをするだけ、という話だったんですが、それは違うなと。
住んでいる人たちが、自分とっての「未来の日常」を表現するようなイベントにしたいと思いました。そこで、地元の人たちに『思い思いのことをしに集まって!』と呼びかけて、ヨガやマルシェ、音楽演奏などが行われました。
「未来の日常」なので、そのイベントをひとつやって終わり、では意味がありません。だからその後の活動でも、地元の人たちの生活に馴染むことを大切にしています。
宮副さん:特別なイベントがなくてもお花を売っていたりするので、よく家族に買い物を頼まれていますよ。日常を楽しんでいる人たちが周りに住んでいるっていうのも、良いんですよね。
昔から、人の魅力がたくさんある街だったと思うんです。でも、公園に地元の人は集まらず、他の街から来た人も滞在していなかった。今、内外から人が集まるようになって、その魅力がやっと知れ渡るようになったと思います。
■街の魅力は、ひとによって作られる
都市再生の成功事例と言われている南池袋公園や「IKEBUKURO LIVING LOOP」ですが、“街を変える” のはそう容易いことではありません。
今でこそ「IKEBUKURO LIVING LOOP」にたくさんの魅力的な出店者が集うこのエリアですが、青木さんたちがここでマルシェを企画した当初は出店希望者がほとんどおらず、街の人に話をしてまわり、共感してくれる人たちだけで開催をしたそう。
青木さん:最初、街の人は興味本位で見ているだけのことが多かったんです。それでも積み重ね続けたからこそ、今があります。
東池袋一帯を盛り上げているこのプロジェクトに、多くの地元の有志が関わっています。池袋に本社を構える良品計画、公園に併設されたカフェレストランのスタッフやオーナー、サンシャインや東急ハンズのように昔からある施設の人たち、個人店の方々……。
池袋の街を愛し、より住みたい街にリブランディングしていこうという仲間たちが、街の進化を加速させる原動力に他なりません。
■「住む」視点でもアツく、魅力あふれる池袋
南池袋公園での成功をひとつのきっかけに街全体が変化をし続けていますが、これからはどのように変わっていくのでしょうか。
青木:「IKEBUKURO LIVING LOOP」という名称には、街なかをループ(=滞在)して欲しいという思いを込めています。若者だけでなく高齢者の方も含めて支えあって、住み心地の良い街にしていきたいです。これからは自然発生的に新しい地域の経済圏が生まれて、地元の人だけでなく外の人にとっても面白い街になっていくはずです。
宮副さん:池袋には意外とローカルな個人店もたくさんあるんです。美味しいパン屋さんや和菓子屋さん、なかには親、子、孫の三世代が常連客になるほど歴史あるイタリアンも……。最近では、お洒落なバルも増えました。そんなローカルな魅力の発信地として、この公園のような場所がいま地元の人に求められているんだと思います。
池袋には魅力が多いですから、“ザ・ローカル” な文化や人々のつながりを壊さない形で、外に広がっていけば嬉しいです。
池袋は、たくさんの顔を持つ街。緑の公園、サブカルの聖地、西口の繁華街、古い飲み屋さん……。そんな様々な側面の変化を今後目撃できるのは大きな楽しみです。
豊島区は現在、『まち全体が舞台の 誰もが主役となれる劇場都市』を基本コンセプトとして池袋の大規模再開発を推し進めています。注目すべきは、リニューアルさせた各公園を、人とカルチャーが交わるハブとして位置づけている点です。
宮副さん:サンシャインの裏側にある造幣局跡地には、今年の(2020年)7月ごろに新しい公園がオープンする予定なので楽しみにしています。広々とした芝生ができて、キッズパークも付くようです。
池袋の「住みにくい」「治安が悪い」といったイメージは、もはや過去のもの。様々な人にとって住みやすい環境が整い、まさに街の「リビング化」が進んでいるのです。
>>「池袋」で住まいを探すならこちらもCheck!
>>ほかの街の先輩の話も読んでみよう
【INFOMATION】
南池袋公園✕グリーン大通り
nest inc.によるオフィシャルサイト。公園やレストラン、イベントの紹介など。
IKEBUKURO LIVING LOOP online
オンラインマルシェを開催。出店者や、池袋のまちの人が出演するYouTubeライブも。出店者情報などはFacebookもご参照ください。
取材・文:丸山 夏名美/撮影:丸山夏名美・cowcamo編集部/編集:cowcamo編集部