中古マンションを購入し、楽しくリノベ暮らしをしているお宅へ訪問インタビューさせていただく「リノベ暮らしの先輩に聞く!」。
今回は、カウカモを運営するツクルバの設計部門、tsukuruba studios architecture室メンバーの建築家・福井悠美(ゆうみ・34歳)の自宅を訪れました。
夫妻そろって建築家の福井邸。以前は同じ設計会社に勤務し、それぞれ社宅に暮らしていました。しかし結婚を機に、「自分たちで好きなように手を加えてみたい」と中古マンションを購入してリノベーションすることに。選んだ街は、当時の勤務先まで乗り換えなしで行ける大森です。築31年のマンション最上階の一室を訪ねました。
■南向きの窓がつながった明るさが決め手に
ドアを開けて驚いたのは、マンションとは思えない視線の抜けと開放感。南からの柔らかな光で満たされた気持ちのいいワンルームは実に70㎡。その中央で存在感を放つのが、長さ4m超の無垢材のテーブルです。
最初にイメージしたのが、「大きなテーブルのまわりにいろいろな居場所がある家」でした。使い方をかっちり決めているわけではないですが、なんとなく右側をダイニング、左側をワークスペースとして使っています。
このテーブルはトチの一枚板。ねじれたり曲がったりしながら育つ木で、縮み杢(もく)と呼ばれる個性的な模様が気に入って。夫と木場の材木問屋で無垢板を選んで、アイアンの脚を取りつけてもらいました。
玄関からは入らず、窓からクレーンで搬入した(!)というテーブル。これだけ開放的な空間だからこそ圧迫感もなく、バランスよくおさまっています。
元は3LDKと、ごくごく普通の間取りだったこの部屋。購入の決め手はマンションには珍しく南側の間口が広く、窓が連続していたことでした。「壁をなくして、風が通り抜けるワンルームにしよう!」と、ごく自然にアイデアが浮かんだと言います。
そしてもうひとつの決め手は、この素晴らしい40㎡のルーフバルコニー!
こんなに広いルーフバルコニーが、毎月1,000円払えば専有スペースになるんです。買うしかないですよね(笑)。天気のいい日に読書をしたり洗濯物を干したり、あとは夫のゴルフの練習スペースとしても使っています。料理好きな夫は、そのうちここでハーブを育てたいって。
ポテンシャル十分のこの物件、しかも室内は購入時すでにリフォーム済みでキッチンもユニットバスも新品だったそう。かなり値が張ったのでは?
それが、リフォーム済みで2,980万円と射程圏内だったんです。即決しましたね。
お手ごろ価格の大きな理由が立地。最寄り駅までは約2kmと歩くには少々遠く、通勤にはバスを使います。こうした条件は多くの人に敬遠されがちな分、価格が抑えられるのがメリット。福井も当初はバスに面倒なイメージがあったそうですが、「調べたら5分に1本は走っているし夜遅い便もあるし、バス停から家までは徒歩3分。暮らし始めてみると、意外と不便はないんですよ」とのこと。暮らしの優先順位によっては狙い目です。
■いつも家族の存在を感じる、でも煩わしくない距離感
基本のプランニングは夫婦で行い、細かな設計や工事の手配などはウェブサイトで探したエム・デザインに依頼。リノベーションでは「蓋を開けてみないと分からない」ことが多いため、いったんプランを作成した後、壁を撤去したスケルトン状態を見て再度細かい部分を検討したそうです。
例えば天井の裏側がどうなっているかも、剥がしてみなければ分かりません。この家の場合キッチンの背面に謎の出っ張りがあったので、中に配管が通っているかと思っていたんです。ところが、壊してみると何もない。おかげでそこにカウンターを作ることができました。
完成した住まいは、4mテーブルを中心にオープンキッチンとリビング、そしてベッドルームまでつながるおおらかなレイアウト。間取りはワンルームですが、キッチンの床は水拭きしやすいフロアタイル、リビングにはラグを敷いてと、さりげなく空間を分けてメリハリをつけています。
一番好きな過ごし方は、窓の近くで本を読むこと。風がすごく気持ちいいんです。
リラックスしてマンガを読みたいときはソファやラグに寝そべって。タブレットを見たりお酒を飲んだりする時はテーブルで。料理好きな夫はキッチンにこもることもあるなど、ワンルームの随所に心地いい居場所が生まれています。
少し意外なのが、プライベート空間のベッドルームさえも壁やカーテンで仕切っていないこと。友人を招く機会もあることを考えると、リビングやダイニングからも見えるのは少々思い切ったプランです。
ベッドの手前だけカーテンで仕切る案も考えたんですが、「後でも取り付けられるから今はいいか」と思って、結局そのまま(笑)。友人が遊びに来ることもありますが、仲のいい人ばかりなので見られてもあまり気になりません。
リビングダイニングの床はフローリングですが、ベッドルーム部分のみ、既存フローリングと下地を撤去してタイル貼りに変更しています。そのため他の空間より床が一段低く、ワンルームの一角ながらこもるような雰囲気。光が差し込むタイルの空間は、小さなサンルームを思わせます。
洋服やモノであふれがちなベッドルームをすっきり保っている点も「見られてOKな空間」を作るポイント。扉付きクローゼットがないのでモノをため込まず、自然と「気に入ったものだけを厳選する」習慣ができています。扉の開閉スペースも節約できて、一石二鳥。
クローゼットがほしい気持ちもあったんですが、洋服の量が少ない夫が「なくていいんじゃない?」と(笑)。ここへ引っ越す前に思い切って断捨離して、モノや洋服を厳選しました。
(ちなみにふたりで暮らすのはこの家が初めてだそう。「いきなりここまでオープンな間取りで、気を使いませんでしたか?」と聞くと「大丈夫」と即答!)
■コストを抑えるコツは「既存のものを生かすこと」
フルリノベーションした印象の福井邸ですが、「リフォーム済み=本来ならそのまま住める状態」で購入したメリットを生かし、「生かせるものは生かす」を徹底しています。その甲斐あって、総工費は約550万円に抑えることができました。特に大きかったのが、新品だったキッチンと水まわりを生かしたこと。
キッチンは目立つところなので気に入ったものに替えようと考えていたんですが、そうすると100万円単位で予算がはね上がってしまうんです。するとエム・デザインの担当の方が「扉にシートを貼るだけでも印象が変わりますよ」とアドバイスしてくれて。ドアなどの建具も同じシートを貼って、コストをかけずに雰囲気を変えることができました。キッチンは目に入りやすいダイニング側だけ、質感があるモルタルを使っています。
フローリング風ビニルタイルだった床は、剥がさずに上から好みの無垢オークフローリングを貼り、撤去費用をカット。床に段差がなく、またリフォームしたばかりで凹凸や歪みがない状態だったことから実現できたそう。
開放的な雰囲気にするため天井を剥がし、壁も白いビニルクロスを剥がして全体を白く塗装。さらに巾木(床と壁の接合部分につける見切り材)を撤去するなど、細かな部分までこだわりました。
仕事ではしないような少々ラフな仕上げも、「自分の家だからいいか」とあまり気にしませんでした(笑)。夫も私もモノトーンが好きなので、空間にはあまり色を入れていません。そこに人がいたりモノを置いたりすれば自然と色が入るから、背景になるインテリアはシンプルでいいと思っています。
うまく優先順位をつけながら、ほしい暮らしを叶えた福井夫妻。けれど実はここを「終の住処」にせず、何年後かに引っ越して新たなリノベーションに挑戦したいと話します。
この次は、一軒家をリノベーションしてみたいんです。街とつながるキッチンのように、街に開いたスペースを住まいの中に作れたらいいな。
頭の中には、すでに新しい設計図。住まいと同じように、自由で風通しのいい夫妻の感性に触れたような気がしました。
ーーーーー物件概要ーーーーー
〈所在地〉東京都大田区
〈居住者構成〉ご夫婦
〈間取り〉ワンルーム
〈面積〉70.01㎡+バルコニー40㎡
〈築年〉築30年
取材・文:石井妙子/撮影・編集:國保まなみ