気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第23弾は「高円寺」です。
あなたが「懐かしいと感じる時代」と言われて思い浮かべる時代はいつごろでしょうか。ゼロ年代? 80年代? 60年代? その答えは人それぞれでしょうが、なぜか誰もが懐かしいと思ってしまう街、それが高円寺ではないでしょうか。訪ねたのは、高円寺北口から数分、北中通り商店街にある「コクテイル書房」。古本屋でありながら、お茶やお酒も楽しむことができるお店です。
■実は新陳代謝が速い街
このお店の外観もレトロですが、ここに向かう道も、駅を降りてすぐ沢山の人で賑わう八百屋さんがあったり、古ぼけたサンプルがショーケースに並ぶ甘味処があったりと、「昭和」を感じさせるスポットが色々あり、「懐かしい街」という印象を抱きます。
ただ、商店街には古い店ばかりではなく、お菓子屋さんや雑貨屋さん、「絵本カフェ」など、若い人がやっていそうな新しい店もあり、古いものと新しいものが共存している雰囲気です。このちょっと不思議な雰囲気の街を、コクテイル書房の店主、狩野俊さんは「新陳代謝が速い街」と表現します。
暮らしてみると、むしろ新陳代謝が速い街だと感じます。もともと高円寺は新高円寺のほうが栄えていて、そこから高円寺駅とを結ぶ商店街(現在のパル商店街とルック商店街)が発展していきました。その商店街が徐々に寂れて行くと若い人たちが入ってきて古着屋を始めて、高円寺カルチャーというものが生まれました。
高円寺と言えば古着というイメージが定着しているくらい古着が有名な街ですが、今のように古着屋が集まるようになったのは実は80年代後半からで、バブル崩壊以降に急速に増えていったようです。そして、そのカルチャーも30年変わらないままでいるわけではないといいます。
今も古着屋はたくさんありますが、お店が入れ替わったりして、扱っている古着は変化し続けています。
確かに、駅の南側の古着屋が集まっているあたりを歩くと、さまざまなジャンルの古着屋が並んでいます。ゴスロリ系だったり、アーミー系だったり、古着ではない手作りの洋服を売っているお店だったり。古着というカルチャーは保ちながら、その中身は変化し続けているのです。それは古着屋だけでなく、他のジャンルの店にも言えるそうで、だから商店街にも新しい店が多く見られ、それが街の魅力になっています。
では、なぜ高円寺は、そのように変化し続ける街になったのでしょうか。
それは高円寺が実は新興の街だからだと思います。90代くらいのおじいさんに聞いた話では、おじいさんのお母さんがここに来たとき、明治の中頃ですが、その頃には高円寺には7軒の家しかなかったそうなんです。近所の人に話を聞いても、だいたい三代前くらいに地方や東京の別の場所からやってきたという人が多いので、街の歴史はせいぜい100年くらいなんだと思います。
だから古いものを大事にしようという発想も余裕もなくて、新しく変わり続けてるのではないでしょうか。
100年を新しいと考えるか古いと考えるかは議論があるかと思いますが、京都のような歴史のある街とは明らかに異なる背景を持っていることは確かでしょう。さらに、第二次世界大戦で高円寺は焼け野原になり、そこからまた新しい街が作り上げられたのです。
■変わり続けても変わらない街
では、なぜ外から街を訪れた人には「懐かしい街」と映るのでしょうか。それには、高円寺の時間の流れ方に理由があるのではないかと狩野さんは言います。
うちの店もよく言われるんですが、高円寺の街はゆっくりと時間が流れていて居心地がいいって言うんですね。「ゆるい」とも言われますが、ゆっくりとした空気が流れているんだと思います。
そんなゆっくりとした時間が流れる街なので、新陳代謝をすると言っても、新しくやってくる人たちもそんなゆっくりした時間を好む人達であり、そのため変化し続けていながらも、ゆるさは保ち続けているのです。
その「ゆるさ」は一体どこから来ているのか、街をゆっくり歩いてみると、古着屋だけでなく、「古いもの」を扱う店がたくさんあることに気づきます。おしゃれな中古の自転車を売る店や、70年代の雑貨を扱うお店、リサイクル着物ショップなどなど、もちろん古本屋も(西部古書会館という東京に4つある古書組合の施設の1つもあります)。
ゆるい空気と古いものが好きな人が集まってきて新陳代謝を繰り返すことで、高円寺の独特の雰囲気は保たれながら変わり続ける。それによって、訪れるあらゆる人が「懐かしい」と感じることができる街になっているのです。
■安心して暮らせる「本の街」に
そんな高円寺は、暮らす人にとってはどんな街なのでしょうか。
東京って明るいように見えて、住宅街を歩くと結構暗いですよね。でも、商店街はずっと明るい。だから、高円寺は安心して歩ける街になっているんだと思います。
高円寺は駅を中心に四方八方に商店街が伸び、その数はなんと14。しかも、商店街と住宅街の距離が近く、商店街から1本通りを入るとすぐに住宅街になります。この街の構成が高円寺に住みやすさと安心感を与えているのです。
そしてさらに安心できる街になるためには、商店と住人のつながりが重要になると狩野さんは言います。
昼間にもし災害が起きたとしたら、商店の人と住人が一緒になって対応しないといけなくなります。だから、普段から交流を持つためにも、商店主と住民が集まる場所が重要になってくると思います。
狩野さんは5年前から盆踊り大会を開催し、それが地元の人たちと商店主たちの交流の場になっているそうで、さらに今は、「本が育てる街」という取り組みを行っているそうです。
商店に本の交換棚を設置して、地元の人達が気軽にいろいろな本に触れられる街にしたいと思っています。ただ、本を交換するって意外とハードルが高いので、一箱古本市みたいに、それぞれが一箱分の本を持ち寄って本を交換する一箱交換市っていうのをまずはやる予定です。そこから本を交換する文化が高円寺に定着して「本がある街」になってくれればいいですね。
本屋さんなので当たり前といえば当たり前の「本がある街」という発想ですが、本もゆっくりと時間を過ごすものなので、街の時間の流れにピッタリだなと感じました。高円寺はこれからも変わらず変わり続け、訪れる人には魅力的で、暮らす人には安心できる、そんな街であり続けることでしょう。
<コクテイル書房>
住所:東京都 杉並区高円寺北3-8-13
電話番号:03-3310-8130
営業時間:昼|11:30~15:00|月火 休、夜|17:00~23:00|無休
ウェブサイト:http://koenji-cocktail.com/
※ 次回の「本のヒトハコ交換市」は、2017/6/11(日)12:00-15:00 @高円寺北口広場にて開催予定。詳細は、本が育てる街・高円寺のウェブサイトをご覧ください。
http://www.hon-machi.com/
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取材・文:石村研二/撮影:石村研二・cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部