気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第92弾は「千駄木」です。
〜古き佳き下町情緒漂う、レトロな街 “谷根千” 〜
徳川家の菩提寺である上野の「寛永寺」が近いことから、数多くの寺院が集まり、右も左もお寺だらけのこのエリア。そして古くから学問&芸術のトップレベルの教育機関が存在することから、ここは数多くの著名な文豪や芸術家にとってのゆかりの地でもあります。夏目漱石も森鴎外も、高村光太郎も、きっと『ここが私のア◯ザースカイ』と言うことでしょう。
激動の昭和期、関東大震災に第二次世界大戦という二度にわたるの火の手を逃れて、明治〜大正期の木造建築が現在まで生き残った街並みを歩けば、まるでタイムスリップしたような気分になれるはず。
近年では、歴史ある日本家屋をリノベーションした、レトロな雰囲気たっぷりの喫茶店や和雑貨のお店も増えてきていますよ。路地裏で地域の可愛い猫とお近づきになれるかも♡
さあ! こんどの休日は、カメラとお気に入りの文庫本を片手に “谷根千エリア” の冒険へと踏み出してみませんか……
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■で、“谷根千” ってどこなのよ?
実は、地図にも路線図にも “谷根千” という名前はありません。「谷中」「根津」「千駄木」の町名の頭文字をとって “谷根千エリア” という通称で呼ばれている、東京の東にある一角のことです。ヤボと知りつつ、行政や交通機関で区切って見てみると……
谷中(台東区)→ 最寄りはJR「日暮里」駅
根津(文京区)→ 最寄りは千代田線「根津」駅
千駄木(文京区)→ 最寄りは千代田線「千駄木」駅
あ、「谷中」駅って無いんですね!
“谷根千” という呼び名が浸透したのは、1984年創刊の地域雑誌「谷根千」が地域内外で絶大な人気を誇ったから。語呂がいいからかその通称でメディアに取り上げられることが多く、すっかり定着して今日に至る……というわけなんです。
「街の先輩に聞く! 」では、駅名を冠して街の情報をお届けするのが常なので、本記事は【#千駄木】としていますが……すみません、正直言って今回は「千駄木」の街の住み心地と言うよりは、上記のもろもろを引っくるめた “このあたりのエリア” の実態に迫ります。
ミシュランにも載る観光地だけあって、とにかく楽しみがいっぱいのエリアです。文字数さえ許せば、もっと文学散歩・建築巡り・食レポなどもお届けしたいところなのですが、今回はあえて観光目線ではない切り口でお伝えしていきますね。
■あなたの眼鏡を、貸してください
今回お話をうかがうのは、この地域のローカルwebメディア「まちまち眼鏡店」を運営する、店長(編集長)の坪井さんと副店長(副編集長)の柳さん。我々カウカモマガジンにとって、もろに同業者のおふたりです!
「まちまち眼鏡店」は、レトロ、下町情緒といったキーワードで切り取られる観光目線の魅力ではなく、自分でない誰かの視点で街の日常を見直し、記録・発信していく住民目線のメディアです。クラウドファンディングを経て2022年3月にスタートを切り、現在すでに100人弱のメンバー(個人)会員が関わっているのだそう。
同じエリアに住んでいても、路上の植木鉢に注目する人もいれば、グルメにアンテナを張っている人もいる。世界の見方や、まちの捉え方は人によって “まちまち”。なるほど……そんな多様な価値観を、ひとつひとつの眼鏡に例えているんですね。
『公開した記事のもれなくすべてに、新しい発見と思い入れがたっぷり』と語るおふたりに、ある記事に関するお話を聞かせていただきました。「まちまち眼鏡店」の想いやスタンスがよく伝わるエピソードだと思うので、少し長くなりますがご紹介します。
■“チャーされていない炒飯” のおはなし
同サイトの「まちとわたし」コーナーにて公開中の記事『「旅ベーグル」店主が愛した谷中』は、筆者の蛇道男(へびみちお)さんが、かつてこのエリアで暮らした日々を思い出の味とともに振り返るノスタルジックなコラム。
話題になっているのは「根津」駅近くの中華料理店「オトメ」のハムチャーハンです。記事内で蛇さんは、先代のおじいちゃん店主が鍋を振るハムチャーハンの中に、たま〜にチャーしきれていない白米(名付けて “レアホワイト”!)が混ざっていたことを懐かしく振り返ります。
当時まだ産声を上げたてだった「まちまち眼鏡店」編集部はそのコラム原稿に大興奮、念のため「オトメ」さんに公開の許可を取ることに。きっとOKに違いない、と考えていたおふたりの予想に反して、お店からの答えは『ちょっと考えさせてほしい』というものでした。
坪井さん:ああそっか、いくら編集側が魅力的に感じても、当のお店にしたらそうは書かれたくない気持ちがあるのか……と。でも、そここそがライターさんのお店への愛が表れているキモの部分だったから、どうしよう⁈ って。
それからしばらくして、編集部に店主さんからのお電話が。やっぱりダメなのか……と肩を落としかけたおふたりでしたが、改めて記事を読んだ店主さんの心境には変化が訪れていました。
坪井さん:そのまま載せていいよって。『うちの店に対する愛がないと、これは書けないからね』と、気持ちを汲み取っていただけて……
『これはその人の大切な思い出だろうから、彼にもよろしくね』と。
ものの見方はひとつじゃないからこそ素晴らしいし、だからこそ自分たちはどこまでも慎重に、フラットでいる必要がある。一連のハラハラを経て、おふたりは改めて街のメディアとしての責任を自覚することができたのだそうです。
柳さん:人情というか、街のお店の志や温かさが体感できたエピソードで。こういうことを伝えていきたいなってすごく感じましたね。これからも記事づくりをきっかけに、いろんなお店に意欲的に踏み込んで行きたいと思います。
人の数だけものの見方があるから、眼鏡はすべて “一点もの” 。記事を読んで誰かの眼鏡で世界を見るということは、ひとの立場に立って考えることに繋がります。眼鏡の貸しあいっこで、暮らしやコミュニティはどんどん豊かになっていきそうですね。