ドアを開くと、バーンと広がる約150㎡のスペース。玄関エントランスも廊下もなく、いきなり「広大な空間」に誘われます。いやはや、のっけから強烈なインパクトを与えてくれるお住まいでした。
ゆうに3部屋でも4部屋でもつくれそうな広さを、ワンルームとして使う贅沢すぎる発想。オーナー自ら「酔狂な物件」と語る唯一無二の斬新な空間ですが、よくよく拝見してみれば、住まいとしての快適性もとことんまで追求されていたんです。
150㎡をひと続きにした、大空間ワンルーム
渋谷駅から徒歩5分、坂道を上がった静かな住宅地にSさんのお住まいはあります。築40年の低層マンションをスケルトン状態からフルリノベーションしたこちらのお部屋。居室部分とバルコニーを合わせて180㎡のスペースに、ご夫婦、長男の3人で暮らしておられます。
冒頭でも述べましたが、最大の特徴はその尋常じゃない広さ。玄関すら無駄とばかりに、壁という壁を徹底的にとっぱらったぶち抜き空間に圧倒されます。
さらに、フロア全面に贅沢に張られた足場板の床、空間をゆるやかに区切る荒々しいコンクリートの梁と柱。そう、広いだけじゃなく、御覧の通りめちゃくちゃカッコいいんです。
聞けばここ、リノベーション済みのマンションとして販売されていたそうです。
こんな普通じゃない家(失敬)、どうやって見つけたんでしょうか? ご主人にお話をうかがってみましょう。
購入したのは1年半前ですが、じつはこの家と最初に出会ったのは5年前。Penという雑誌の「こんな家に暮らしたい」特集で表紙に掲載されていたんです。当時僕は社会人1年目で賃貸暮らしだったんですけど、ひと目見て衝撃を受けましたね。「超カッコいい」って。その雑誌を妻にも見せて、いつかこんな家に住みたいねって話していました。
―しかしながら、その時は別のオーナーが所有されていたわけですよね? どういういきさつで買うことになるんでしょう?
僕は不動産サイトが好きで新着物件を頻繁にチェックしているんですけど、2年くらい前かな、その時たまたまサイトを見にいったらこの家が売りに出されていたんです。これはもう見に行くしかないって、すぐに内見を申し込んで。当時は家を買うつもりなんてまったくなく、むしろ生涯賃貸でいいと思っていたんですけど、ここに絶対住みたいという一心から、勢いで買ってしまいました。
― 5年越しの想いが成就したわけですね。しかし雑誌で特集されるほどの物件です。ほかに欲しい人もいたのでは?
倍率は高かったようです。内見もすごい数の申し込みが入っていたみたいで。じつは僕の友人も何人か申し込んでいたようです。なかには即金一括払いで買うって言う人もいたそうで、資金面では僕らはとても太刀打ちできなかった。でも、幸いにもオーナーさん夫婦と気が合って「あなたたちに住んで欲しい」とおっしゃってくれたんです。すごくこだわってつくった住まいだけに、ご夫婦としても自分たちが気に入った人に手渡したいという思いがあったみたいですね。
― 前のオーナーさんってどんな方なんですか?
ご夫婦とも大手広告代理店でクリエイティブなお仕事をされています。業界でも名の知れた、ぶっとんだものをつくるクリエイターで、それだけに自分たちの家も作品のように愛情をかけてつくりこんでいる方でした。おかげで僕らはそのこだわりをたっぷり享受できているわけですけど。
― とはいえ、ここまでオープンな空間だと不便なこともありませんか? たとえば、家族とはいえプライバシーが確保できないのってけっこうストレスだと思うんですが。
いや、それがまったくないですね。そもそも僕らは結婚してからもずっとワンルームに住んでいたんで、家族はずっと同じ空間に一緒にいるのが普通だと思ってる。一度2LDKに住んだこともあったけど、ずっと一緒の部屋にいて1部屋余っているような状態だったので。
それに、前オーナーさんが住んでいるとき、不便な点はちょこちょこと改装してくれていたので、むしろ快適すぎるくらい。コンセントの数も多いので家電やインテリアのレイアウトもいじりやすいですしね。ちなみに、前オーナーさんは将来的にオフィスとして貸し出すことも想定してリノベーションしたみたいです。だからほら、トイレが2つあったりするんですよ。
― Sさんも、ゆくゆくは誰かに貸すことを想定していたりするんですか?
いや、この家は誰にも渡したくない(笑)。この雰囲気もそうですけど、渋谷でこの広さのマンションって今ではまず見つからないんですよ。新築の分譲だと一番広くても80㎡くらいですから。居住スペースだけで150㎡って、かなり稀少ですよ。子どもも思いっきり走り回れますし、仕事場としても十分に使えますしね。それに、ここを買うことになった直後に周辺の再開発が正式決定して、これからどんどん便利になる。なおさら離れられなくなるでしょうね。
― では、改めてお気に入りのポイントを教えてください。
色々ありますけど、まずはこの採光です。空間の一面全部が窓なので、とにかく明るくて温かい。日中は照明をつけなくても大丈夫だし、冬でも夕方に帰ってくるとむしろ暑いくらい。あとはダイニングの上にも天窓があって、ちょうど食卓に光が降り注ぐようになってる。いつでも家の中が光に包まれているというのは、何にも代えがたい価値ですね。
― 内装もかっこいいです。
全体的にわざと「ぼろく」つくってあるんですよ。たとえば、このテーブルも工事の際に足場用の板として使っていたものをリメイクしたものだし、柱や梁はコンクリートむき出しなんですけど、ペンキの汚れとか40年前の工事の時のメモ書きとかがそのまま残ってる。あと、よく見るとコンクリートの中に40年前のアンパンの包装紙が埋まっていたりします。工事の時に職人さんが捨てたゴミですかね。そういうひとつひとつの痕跡が、なんとも味わい深くていいんですよ。あまりにキレイすぎると、住んでいくにつれて劣化が目立つようになりますが、この家は傷みや汚れもむしろ味になる気がします。
― 機能面はいかがですか? 収納とか足りてます?
じつは隠れた部分にたくさん収納スペースがあるんです。ものがどれだけ増えても大丈夫なくらい。お風呂も広くて快適だし、住んでから初めて分かったんですけど、見た目だけじゃなくて快適性もかなり追求されているんですよね、この家。本当に細部までこだわっていて、感動しますよ。
― あと、この揺りかごみたいなブランコが気になるんですが、これは元からあったんですか?
元からですね。天井に埋め込んだ金具から吊るしてあります。前のオーナーさんがブランコごとプレゼントしてくれました。うちは夫婦ふたりとも、家の中にモノをあまり置きたくない主義なので、このブランコがインテリアのアクセントになっています。友だちが家に遊びに来ると、必ずここに座って写真を撮っていくんですよ。フェイスブックのプロフィール画像にうちのブランコに乗っている写真を使っている友人も多いですね(笑)。
― なるほど。では、今後自分たちで手を加えてみたい部分はありますか?
子どもの安全のためにベランダに柵を付けるくらいで、あとは基本このままですね。仕切りを立てれば部屋はいくらでも増やせますけど、それだったら別にここに住む必要はありませんからね。とにかく代替できない物件、まさにone and onlyな住まいに暮らせていることが本当に幸せです。
ーーーーー物件概要ーーーーー
〈所在地〉東京都 渋谷区 桜丘町
〈居住者構成〉ご家族(ご夫婦、長男)
〈面積〉149.15㎡
〈築年〉築41年
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取材・文:榎並紀行(やじろべえ)/撮影:cowcamo