気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第28弾は「東中野」です。


中央線各駅停車で中野から1駅、新宿からは2駅の東中野。すごく便利な場所にあるけれど、特に用事もないし行ったことないという人が多いかもしれません。人気マンガ『孤独のグルメ』の主人公・井之頭五郎さんも「初めて降りたな」と言っていました。

でも、実はこの東中野、中央線沿線らしいマニアックなカルチャーが根付き、その中でも一番と言っていいほどの「ゆるさ」を持つ街だったのです。ここ東中野の駅前で30年も前から中東の味を提供し、『孤独のグルメ』にも登場したレストラン「パオ・キャラヴァン・サライ」の石川惠子店長に話を聞きました。 

パオ・キャラヴァン・サライの外観。暗くなると、まるで屋台のような雰囲気に。多くの人で賑わいます。

■なにもなさそうだけど実はカルチャーが根付く街

パオ・キャラヴァン・サライができたのは約30年前。絨毯の輸入業をしていた社長さんが、友人だったこの土地のオーナーの家の裏庭に移動式住宅のパオを立てて羊の串焼きを売り始めたんだそう。今でこそ羊肉を出すお店は多いですが、当時は羊肉料理も中東の料理も非常に珍しかったんだとか。

左:パオ・キャラヴァン・サライが入るのは、このビルの1階。/右上:東中野駅の雰囲気。2012年に駅ビルができ、駅周辺の雰囲気は大きく変わった。/右下:駅前に走るは山手通り。

東中野って言うとよく「なんにもないじゃん」っていわれるんですけど、来るとここにしかないものがあるんです。うちのお店もそうですけど、何と言ってもポレポレ東中野はそこでしかやらないようなマニアックなドキュメンタリー映画をやっています。あと、梅若の能楽堂もありますし。

お話を聞かせてくださった、パオ・キャラヴァン・サライの石川惠子店長。

ポレポレ東中野は映画監督の本橋成一さんがオーナーの映画館で、1994年にBOX東中野としてオープンし、2003年にいったん閉館したものの同年にポレポレ東中野として再開しました。他の映画館では一切やらないような作品も上映する映画館で、全国からドキュメンタリー映画ファンが訪れる場所でもあります。

ポレポレ東中野。最近だと、「人生フルーツ」というドキュメンタリーを見に、足を運んだ方も多いのでは。

能楽堂があるのは、梅若能楽学院会館。能以外にも舞踏、演劇、音楽などさまざまな公演が行われています。

この、梅若能楽学院会館の中に能楽堂がある。

■なんでも受け入れる“現代の日本の村”

実は歴史ある文化施設があるという東中野ですが、パオ・キャラヴァン・サライのお店にはどんな方が訪れるのでしょうか。

ポレポレや能楽堂から流れてくるお客さんも多いです。このあたりは大きいお店がないので、大勢で入れるのが重宝されているみたいです。あとは、地元の人も多いです。外でカバブを焼いていて、屋台みたいになっているんですけど、そこはほとんど地元の人じゃないですかね。どこかに出かけてきた帰りにもう1杯引っ掛けて帰るみたいな。

パオ・キャラヴァン・サライ店内の様子。一歩足を踏み入れるとパクチーの香り。同じビルの9階には、「驢馬駱駝(ろまらくだ)」という多元的スペースがあり、そこはベリーダンスをはじめ様々なイベントの会場として使われているそう。ビル丸ごと、多国籍な雰囲気。

近くにサウジアラビア大使館(文化部)があるので、大使館の方も来ますし、ムスリムの方はハラルフードで大変みたいで、口コミで来て頂けることも多いですね。最近は、中国人観光客も多いです。『孤独のグルメ』で取り上げられたんですけど、あっちでも放送されているみたいで、それを見て来たっていう人が結構いるんです。

お店ではこういった料理が楽しめる。左上から、自家製麺のラグマン(パクチーたっぷり!)、チョバーンカバブ、カバブ、カラフィ(羊)。

中国人観光客が日本に来て中東料理を食べる。なんだか不思議ですが、「なんでも受け入れてごちゃまぜにするというところは、日本らしい店なのかもしれない」と、石川店長。そしてそれはお店に限らず、東中野の街にも言えることのようです。

大久保が隣なので外国人留学生が多いのか、どこの国かわからないような人も普通に歩いていますけど、それをみんな受け入れているのが東中野なんです。その一方でお年寄りも多いし、子どもも多かったり、私は東中野は「現代の日本の村」だと思っています。

■おしゃれなお店やタワーマンションがあっても、やっぱり “ゆるい”

様々な人を受け入れる東中野は、お店も種々雑多。駅の西側、東中野銀座商店街は地元の人達向けで、チェーンの飲食店やスーパーなどがありますが、先へ進んでいくと昔ながらの豆腐屋さんがあったり、佃煮屋さんがあったり、銭湯があったり。

東中野銀座商店街の様子。良い意味で “生活感” のある通り。

駅の北側にある、駅前飲食店会ムーンロードは「昭和の町」と題され、スナックやらバーやら新宿ゴールデン街のミニチュアのような雰囲気です。このムーンロードでは秋にお祭を開催しているのだそう。

居酒屋だけではなく、パン屋さんも渋い!(写真上)

駅の南側、線路と平行してある商店街は、おしゃれなお店が立ち並んでいますが、どのお店も小さくてアットホーム。東中野の親しみやすさを保ちながらおしゃれな感じも備えています。

カフェやバル、ビストロなど、おしゃれな雰囲気のお店が並んでいる。

ここ数年、東中野はマンションの建設ラッシュ。2007年に竣工したユニゾンタワーを皮切りに、次々とタワーマンションができています。それによって若い人たちが入ってきて、街も変わるのかと思いきや、石川さんはそうは考えていないようです。

タワーマンションができたり、遊歩道が整備されたりと、街の姿は変わっていっている。

街の風景は変わりましたけど、ゆるさっていうのは変わらない気がしますね。たしかに新しい人が入ってきているんだけど、その人達もゆるい雰囲気が好きな人たちで、だからもともとのカラーは変わらないままのような気がしています。

近くを流れる神田川も、以前は汚くて悪臭漂う川だったのが、川の水も綺麗になり、遊歩道も整備されて地元の人達の憩いの場になりました。駅の南側、神田川と並行するようにある商店街・東中野名店会もちゃんこの名店北の富士など昔からある名店と最近できたおしゃれな店が併存する魅力的な商店街。

どこの商店街、どこの通りを歩いても、こんなところにこんなお店が! という発見がそこここに。新しいものも昔ながらのものも、あらゆるものを懐深く受け入れる “ゆるい” 街。それが東中野なのです。   

パオ・キャラヴァンサライ
住所:中野区東中野2-25-6 1F
電話番号:03-3371-3750
営業時間:月曜~土曜/17時~24時、日曜 ・ 祝日/17時~23時
ウェブサイト:http://www.paoco.jp/caravan/

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