気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第19弾は「武蔵小山」です。
目黒駅から東急目黒線で2駅とかなりの中心地にありながらも、駅前から長く伸びる商店街には味のあるお店が並び、どことなく懐かしい雰囲気が漂う街、武蔵小山。その武蔵小山の雰囲気の重要な要素のひとつとなっているのが、大正13年の創業以来この街の銭湯として親しまれてきた、武蔵小山温泉「清水湯」です。
清水湯が自ら掘り当てたふたつの天然温泉を楽しめるということで、周辺の銭湯が潰れて行く中で、こちらの清水湯には連日多くのお客さんが訪れます。そんな清水湯の三代目店主である川越太郎さんに現在の武蔵小山の魅力はどのように形成されて来たのか、そして現在行われている再開発でこの街がどのように変わるのか、お話を伺いました。
■老若男女が訪れ、交わる憩いの湯
武蔵小山って、住みたい街ランキング10位以内には残念ながら入ったことないんですけど、僕は絶対入ると思ってます。実は六本木とか霞が関、渋谷などの都心に行くのも、タクシーを使えば20分くらいで行けるし、立地もすごくいいんですよ。
生まれ育った武蔵小山についてそう話す川越さん。
筆者が伺った日曜日は週に1度の朝湯を開けている日。オープンの朝8時前から入り口には多くのお客さんが並んでいました。
お客さんはまさに老若男女、すべての層の人がいらっしゃいます。銭湯というと、高齢の人のイメージがあるかもしれませんが、若い人、学生もすごく多いですね。友達やカップルで来ている人をよく見かけるし、インスタなんかにアップしているのを見たりもします。
今、うちから半径800mにはもう銭湯がないんですよ。足腰の弱い近所のおじいちゃんおばあちゃんのためにも、ここは潰しちゃいけない、という気持ちでやっています。
この日はお店の横のスペースを利用して、福島県の野菜やお惣菜などが産地直送で販売されていました。この取り組みは東日本大震災直後から行われているそうですが、この日も小雨の中、お客さんで大賑わい。
露天風呂や休憩スペースではお客さん同士が会話をしながらくつろぐ姿もみられ、そのあたたかな雰囲気はまさに “まちのお風呂場”。地域の人にとって、清水湯が普段づかいの場であり、コミュニティ形成の場でもあることがうかがえました。
■都会の中のロストワールド
川越さんは、武蔵小山に昔から住む人は下町気質の人が多いと言います。
武蔵小山に住んでいる人って、もとを辿ると、関東大震災の時に浅草の下町の方の人たちが焼け出されてこっちに来た、という人が多いらしいんですね。だからか、今も下町っぽさは残ってていて、夏・秋になると神輿祭りがあったり。周辺が栄えてもちょっとここはロストワールドというか、いつまでも東京の田舎っ子みたいなところがあると思いますね。
その下町文化を象徴するもののひとつが、武蔵小山における商店街の多さです。武蔵小山には駅前から約800メートル続くパルム商店街をはじめ、全部で5つの商店街・商店会があり、懐かしさを覚えるようなお店が軒を連ねています。
お店の人とお客さんが会話をしながらものを買う。大型店舗ではなかなか見ることのできない光景が、商店街全体の雰囲気をあたたかくしているようでした。
そしてもうひとつ、武蔵小山のトピックといえば、林試の森公園。もとは国の林業試験場だったというだけあって、広大な敷地の中に様々な植物が広がり、植物観察のために訪れる人の姿も見られました。広場や池、デイキャンプ場には小さな子どもを遊ばせる方も多く訪れ、広いだけでなく、様々な目的に利用できる公園のようです。
■ローカルなコミュニティに入り込むことができる街
そんな昔ながらの魅力に溢れる武蔵小山ですが、一方で住民の入れ替わりも多く、特に地方出身者に人気が高いと言います。
親しみやすいんだと思いますね。それに、その土地のローカルなコミュニティに溶け込みやすいのって、銭湯だったり、赤提灯系の、店主がお客さん同士を繋げてくれる飲み屋じゃないですか。そういうお店も多いですし。
うちも風呂友じゃないけど、お客さん同士で仲良くなっているのも見かけます。例えば平日は本当に寝に帰るだけ、っていうキャリアウーマンな方がお客さんにいるんですけど、休みの日によく来て、地元のおばちゃんと仲良くなっていて。その方は賃貸暮らしだったんですけど、こないだここにマンションを買われたみたいですね。終の住処にする、って話してくれました。
実際に、取材後に露天風呂へ入っていた本日清水湯初体験の筆者にも、近所に住んでいるという女性が「色が白いわね」と話しかけてくれました。自分の生活に追われ、家には寝に帰るだけ、そんな多忙な生活をしていても、どこかで「この街に住んでいる」と感じることができる街なのかもしれません。
■再開発で変わる街、変わらない心
現在、武蔵小山では駅前を中心に大規模な再開発が進んでいます。地元の人はどう捉えているのでしょうか。
ウエルカムですよ。人が増えれば商店の潜在能力的なものは上がりますから、お客さんも増えるだろうし、活気も出るでしょうし。でも今再開発しているところってもともとは闇市だったんですよ。その流れで古い飲み屋が残ってて、まさに昭和の原風景という感じだったので、それがなくなるのは少しもったいないし、名残惜しいですけどね。
でもやっぱり昔ながらの武蔵小山の良さっていうのは、残したくなくても残っちゃうものだと思うんです。住んでる人は変わりませんからね。
人と人とのふれあいと活気の中で紡がれて来た魅力を残しつつ、生まれ変わろうとしている街、武蔵小山。その新しい姿が今からとても楽しみです。
<武蔵小山温泉 清水湯>
住所:東京都品川区小山3丁目9−1
tel:03-3781-0575
営業時間:平日 12:00~24:00、日曜日 8:00~24:00、祝日 12:00~24:00
ウェブサイト:http://www.shimizuyu.com/
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取材・文:笹川智香/撮影:笹川智香・cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部