気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました! 「街の先輩に聞く!」、 第66弾は「池上」です。


3扉3両編成という都内では小さな路線、東急池上線。ローカル感がありつつも、五反田・蒲田という人口の多いふたつの駅を結ぶ都心からアクセスのよいエリアです。池上線はもともと日蓮宗の大本山「池上本門寺」の参拝客のために生まれた路線ですが、この中心的な街が今回ご紹介する「池上」です。

商店街が12個あり、治安がよく、空気がゆったりと流れるこの街は、その住みやすさから東急電鉄も再開発を進める注目の場所のひとつ。駅ビルができることで、より便利で住みやすく進化している真っ只中です。

駅ビルは地上5階建てのビルに生まれ変わる予定。2020年の開業を目指し、絶賛工事中。

今回は、昭和初期から池上で愛され続けたお蕎麦屋さんを改築して生まれた古民家カフェ「蓮月」の店長、輪島基史さんに池上の魅力とこれからについてお伺いしました。

■たった5ヶ月で昭和の古民家をリニューアル

「蓮月」は以前、池上本門寺の参拝客や地元の人々に長年愛される「蓮月庵」というお蕎麦屋さんでした。2014年に、「蓮月庵」を経営していたご夫婦が高齢を理由に閉店することになったのですが、この歴史ある古民家を後世に残したいという人々が集まり、保存プロジェクトが発足。古民家カフェ「蓮月」として息吹を取り戻しました。

街のシンボル「池上本門寺」は1282年に日蓮聖人が入滅(臨終)された霊跡として、今でも多くの参拝客が集まる場所。

このプロジェクトを知った時は、自分がオーナーになろうとは全く考えていませんでした。飲食店の知人・友人を紹介するという関わり方で・・・。紹介した手前、説明会に顔を出していたのですが、しばらく経って「輪島さんに店長をやってほしい」と連絡が来たんです。

古民家カフェ「蓮月」の店長、輪島基史さん。

その話が来たのは、ちょうど輪島さん自身が経営していた古着屋さんを閉めた頃。将来、バーを開きたいけれど飲食店の経験がないので、どこかで修行をしようとも考えていたそうです。

建築のことも、飲食店のことも何も知らない自分が本当にできるのかと、とても悩みました。ただ、ほかに名乗りを上げた人は実現に至らなかったし、こんな機会は滅多にないので挑戦しよう! と思ったんです。

お蕎麦屋さん時代の家具が残る店内は、池上らしい昭和の味わいがある。

四季折々の花が咲き乱れる庭。

すべてが未経験だった輪島さんが向き合ったのは、ボコボコの床、雨漏りする屋根、隙間の空いた壁など、修繕が大変だけれど池上の風情が残る古民家でした。何から手をつけていいか分からない中、輪島さんは池上をもっとよく知ろうと街を歩き回ったと言います。

釜飯屋さんに入ってみたら、その釜飯が本当に懐かしい味がしたんです。あぁ、池上って素敵な昭和の香りがする街なんだなと思いました。そんな街を感じながら歩き回って、結局、古民家を残したい人たちの気持ちに応えると決めたんです。

こちらがその釜飯屋さん「にれの木」。

今まで食べた中でも格別に美味しく、懐かしい味がしたそう。

そんな決意を胸に、輪島さんは必死にお店のリニューアルに取り組みました。そして「蓮月」は、驚異の5ヶ月という短期間でオープンを果たします。

■懐かしい昭和の味を生かす

輪島さんが「蓮月」を作るにあたって意識したことは、池上をずっと生きてきたこの建物をできる限り残すことでした。お蕎麦屋さんだった時の引き戸やテーブルは今でも利用されていて、一昔前の雰囲気が味わえます。

古民家カフェにはとてもお洒落なお店もありますが、「蓮月」はお洒落すぎず居心地のいい空間を目指しているそう。“家族” がテーマだという通り、ついつい長居したくなる温かさがあります。輪島さんが、池上を歩いて感じた「懐かしい昭和の香り」がそのまま表れているようです。

回転率が重要と言われる飲食店ですが、「蓮月」は長居をしても怒られません。むしろ、近所の子ども達が通いやすいように、中高生は値段を半額にしたり、2階を自習室として開放したりとお客さんがずっと居られる工夫がされているんです。

自習室として開放している2階スペース。

居心地のよい空間作りをしていたら、「蓮月」をひとつの観光スポットとしてくる人が増えてきました。僕にはこうやって池上の魅力を伝え、盛り上げていくんだという気持ちが常にあります。「池上本門寺」という伝統ある寺だけではなく、人の優しさ、昭和の温かさ、懐かしさを感じられる街としてもっと注目されていく街なんです。

その言葉や冒頭でも述べた通り、池上は東急電鉄が再開発に力を入れる街として進化しています。再開発と言っても、池上の良さがしっかり残るように、チェーン店はあまり入れない、街並みは崩さないなどの工夫もされているため、街の風情がしっかり残ることも魅力です。

▲蓮月が制作した、池上本門寺通りのプロモーション動画。「大田区商店街PR動画コンテスト」で最優秀賞を受賞したそう。昔から残る街並みや、のんびりとした温かい空気が伝わってくる。

池上は久寿餅(関西の葛粉から作られる「葛餅」と異なり、江戸時代から関東で発達した小麦粉を発酵させて作る三角形の和菓子)発祥の地と言われており、街には名店が集まる。

■新しいものを受け入れる包容力のある街

懐かしい昭和の良さと、それを壊さない・・・むしろ生かすような新しい風が入っていく。これができる素敵な地盤がある街です。どこでもあるようなお店が並んでいるのではなく、味わい深い個性的なお店が並ぶ。それが池上の魅力のひとつです。

昔ながらの飲食店、呉服屋、お煎餅屋さんにも昭和の香りが残る。

また、池上に住む人々はファミリー層から核家族まで幅広いのですが、共通するのは「柔らかい人間性」です。新しい人や物を受け入れる包容力があるので、住むだけでなく開業にもオススメですよ。

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駅前の商店街には多くのお店が集まり、生活に必要なものが何でも手に入る。

「池上本門寺」の街のイメージが強い池上ですが、最近では動画配信スタジオや、「蓮月」以外の古民家カフェができるなど、確実に新しい風が入り込んでいるようです。

昭和の懐かしさと、それを盛り上げる若い力が混ざり進化する街、池上。一部で注目されるこの街は、これから更に面白く進化してくれそうです。

古民家カフェ 蓮月
住所:東京都大田区池上2-20-11
TEL:03-6410-5469
営業時間:10:00~18:00(LO 17:30)
定休日:不定休
ウェブサイト:http://rengetsu.net/

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