気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第49弾は「阿佐ヶ谷」です。


街それぞれが個性的な文化を持ち、存在感が強いと言われるJR中央線沿い。「中央線カルチャー」という言葉が生まれるほど憧れる人も多く、住まいとして人気の場所も多い沿線です。例えば吉祥寺、高円寺などはその代表格。多くの雑誌で住みたい街ランキングに登場しています。その中央線沿線にありながらも、周りの街のトレンドに流されず、独自の落ち着きを守り続けている街のひとつが阿佐ヶ谷。

実は隠れた人気から、住んでいる人が離れず、なかなか物件の空きが出ない場所です。今回はそんな阿佐ヶ谷で、約35年間この街を見つめてきた純喫茶「gion」の関口 宗良さんに話をお伺いします。 

レトロな外装の店舗は、緑に包まれている。

■毎日朝から深夜まで、街のお客さまを迎える

阿佐ヶ谷駅の北口を出て右手へ歩くと、中央線を貫くように南北へまっすぐ流れる美しいケヤキ並木があります。阿佐ヶ谷の代名詞のひとつであるこの並木道は、初秋の現在(9月初旬)、渡るときに左右どちらを向いてもケヤキが青々と茂っていて爽やかです。この道を渡ったすぐの場所にあるのが、多くのメディアにも登場する街の人気喫茶店「gion」です。

阿佐ヶ谷を南北に流れるケヤキ並木

「gion」の営業時間は朝8時半から夜の26時まで。1日のほとんどを占める17時間半、年中無休でオープンしています。この日、オープンの時間に合わせてお店に伺ったところ、すぐに阿佐ヶ谷住まいと思われるお客さまが集まってきました。お店が開く時間ぴったりに合わせて来た30代半ばの女性、朝食を食べに来た小学生の子連れのお母さん、コーヒーを片手に新聞を読む年配の男性。朝の時間帯だけでもバラエティに富む客層です。

平日は毎日来るお客さんが、ほとんどです。お客さんによっては1日に2度来られることもあります。阿佐ヶ谷は住宅街なので、どの時間帯もお客さんがいらっしゃるんです。朝は年配の方が多く、夜になればなるほど若い方が増えて、深夜は仕事帰りのサラリーマンが1日の最後の時間を過ごしに来ます。

阿佐ヶ谷の人々を虜にしてきた「gion」。お店が開いている時間が長いからこそ、関口さんは阿佐ヶ谷にいる様々な人を見てきました。

■お客さまが素敵な時間を過ごせるように

それにしても、開店している時間がここまで長く年中無休というのは、一般的に考えると非常に大変なこと。関口さんが、この営業時間を毎日守り続けるのはどうしてなのでしょうか。

「gion」オーナーの関口さん

このお店に来たお客さんが、いかに素敵な時間を過ごしてくれるかが大切です。喫茶店は決して、儲かる職業ではなく、こだわる程むしろ薄利多売になってしまいます。だからこそ、楽しくやりたいんです。お客さんに喜んでもらい、それを支えるお店の子にも楽しんで欲しい。そうすれば、その中にいる自分も楽しくいられますから。

「とにかく多くのお客さまに素敵な時間を過ごしてほしい」という関口さんの強い思いが、営業時間に表れているようです。

その思いは営業時間だけでなく、インテリア、メニュー、制服など、お店の至るところで一貫しています。例えば、小さな壁側座席の窓の外に飾られたフェイクグリーン。以前その窓の先は隣の建物で、日も当たらず寂しかったそう。その席に座った人が少しでも気持ちよく過ごせるようにと考えた関口さんは、日が当たらなくても枯れない人工の植物で窓辺を飾ることにしました。

奥の窓の外は、お客さまを楽しませるためのフェイクグリーンが飾られている。

また、珍しいのは座席の一角に設置されたブランコ。これは関口さん自身が昔行った吉祥寺のジャズ喫茶からアイディアをもらったそうです。

吉祥寺のジャズ喫茶は6人乗りのブランコがあって、とても楽しかったんです。ただブランコには好き嫌いもあって落ち着かないお客さんもいる。どちらの方にも来ていただけるようにバランスを考えて取り入れた遊び心です。

飾られた絵や、店内を照らす色鮮やかなステンドグラスは、すべて関口さんご本人が問屋さんなどで買い付けているそう。また、後ろにちらりと写る店員さんの制服は、ブラウスにロングスカート。基本のスタイルは変わらないが、変化・進化していきたいという気持ちから、作り変えるごとに少しずつ変更しているそう。

メニューは今も昔も変わらずどんな人にも愛されるものを選び、リーズナブルな価格で提供しています。中でも看板メニューは、関口さんオリジナルで生み出したソース味のナポリタン。若者から年配の方まで、どの層にも人気だそうです。この日の朝、私にお勧めしてくれたのはアイスコーヒー。クリーミーなミルクがコーヒーと綺麗な層になっていて、見た目にも美味しい一品でした。

右:ただ眺めるだけでも楽しいメニュー。/左:甘みはあっさり目で、コーヒーの香りとコクが楽しめるアイスコーヒー 全ては日々訪れるお客さまのため。35年間以上、この街を見つめてきた「gion」は、今や阿佐ヶ谷のシンボル的存在に。

■引っ越してしまった人がまた住みたくなる街

そんな「gion」の関口さんに改めて「阿佐ヶ谷の魅力」を聞いてみました。

商店街が全部で18あると聞いています。人が集まる商店街がたくさんある事で、何でも揃いやすいし、誰もが住みやすい街なんです。

阿佐ヶ谷は都内屈指の商店街の密集地区。中でも特に大きい商店街が阿佐ヶ谷パールセンター。肉屋、八百屋、ドラッグストアに100均ショップ、飲食店、屋台のようにその場で食べれるおでん屋さんと、とにかく何でも揃っています。この日、サラリーマンの出勤時間が終わった午前10時ごろも、子供から大人まで多くの人で賑わっていました。

この日もパールセンターを歩いていると、とっても美味しそうなおでんがグツグツと。駅の周りに集まる商店街では、生活に必要なものが何でも揃う。

商店街同士の関係も良好とのことで、それが街全体で楽しめる行事の多さにも表れています。七夕まつり、年4回のジャスストリートフェスティバル、10基ほどの神輿が担がれるという阿佐ヶ谷神明宮の例祭などなど。老若男女問わず参加でき、街が一体となる行事の多い阿佐ヶ谷は活気にあふれています。

毎年8月上旬に開かれる「阿佐谷七夕まつり」は街全体が盛り上がるイベントのひとつ。浴衣姿を着たたくさんのひとで街が賑わう。

そんな阿佐ヶ谷ですが、この街には活気とともに品の良さがあると関口さんは言います。

隣の高円寺のように若者が集まる居酒屋でなく、喫茶店が多いんです。阿佐ヶ谷の喫茶店は高円寺の2倍以上。やはり男性と女性、若い人と年配の方とのバランスが良いからだと思います。そして、どの層も共通するのは品があることです。例えばタバコの吸殻を捨てたりする人はほとんどいない。人が嫌がることはしないというのが、この街の文化です。

阿佐ヶ谷はかつて、文士が集まる街でした。井伏鱒二を中心に結成した会合は「阿佐ヶ谷会」と呼ばれ、多くの文士たちがここで交流を深めました。今でも、その知的な雰囲気や文化が阿佐ヶ谷に残っていると関口さん。

文学系の関係者が今でも多いですし、教育という面でもすごくしっかりしている街です。

阿佐ヶ谷といえば、のスポットのひとつと言えば、レトロな映画館「ラピュタ阿佐ヶ谷」。館内地下には小劇場も内包されている。

中央線カルチャーやトレンドに流されず、独自の活気と品がある街、阿佐ヶ谷。老若男女、この街が誰にでも愛される理由は、歴史と文化の連なりと、それを今でも大事にするこの街の人々にあるようです。

古くからの面影が残る「スターロード」。

お店に来る人に一番住みたい街を聞くと、みんな「阿佐ヶ谷」と答えますよ。なんらかの理由で引っ越してしまった方がたまにお店に来るんですが、その方も「阿佐ヶ谷が良かった」といつも言っています。

gion
住所:東京都杉並区阿佐谷北1-3-3 川染ビル 1F
電話番号:03-3338-4381
営業時間:[月~土]8:30~翌2:00、「日」9:00~翌2:00
定休日:年中無休

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