気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の暮らしぶりを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第17弾は「桜新町」です。


桜新町は「サザエさん」の作者、長谷川町子さんが住んでいた街。サザエさん、ノリスケ、カツオにワカメにタラちゃん・・・街のそこかしこにキャラクターのモチーフがあって、歩くだけで心がほんわかしてきます。ただし漫画の世界から庶民派な街を想像すると、現実は少し違います。実は桜新町は古くからの高級住宅街なのです。上質を好む街の住人は、食にもこだわりがあるとのこと。今回は駅前の大通りにあるワインとデリのお店「エプロンズ・フード・マーケット」の小川寛貴さんのお話から、桜新町マダムの食卓を想像してみます。

上:桜新町駅を降りると、サザエさんのキャラクターの銅像がお出迎え。/下:サザエさん通りを抜け、突き当たりを右に曲がると「長谷川町子美術館」が。

■ゆったりとした暮らしが根づく「サザエさん」の街

地下鉄の駅を出ると高架や電信柱のない広い空と、八重桜の並木道が迎えてくれます。桜の季節は本当に綺麗ですよ!

以前、たまプラーザのスペインバルで働いていた小川寛貴さん。桜新町駅前の桜並木沿いにワインとお惣菜のお店「エプロンズ・フード・マーケット」を開店して6年目になります。

桜新町は「長谷川町子美術館」がある、『サザエさん』の街でもあります。今や洗練された住宅街ですが、キャラクターが醸し出す穏やかな空気感は今も街に残っています。商店街のそこかしこにサザエさんのキャラクターのモチーフがありますし、BGMもサザエさんなんですよ! 繁華街である三軒茶屋、そして学生の街である駒沢大学とは違って、桜新町はゆったりとした生活者の街ですね。

街中のいたるところで、サザエさんのキャラクターのモチーフに出会える。

渋谷から駒沢大学駅までは、幹線道路の高架に街を覆われる圧迫感がありますが、桜新町駅は幹線道路から逸れたところにあるため、広々としています。実は桜新町は明治末期に日本で初めて宅地分譲が行われた地域だそう。整然とした街並みには、長い歴史があるのですね。その住環境が、閑静な暮らしを求める人々に支持されて現在のような落ち着いた住宅街が醸成されました。

電線が地下化していることも、空が広く感じられる理由のひとつ。

■顔の見える買い物で、間違いのない品質を求めるのが、桜新町マダム流

「エプロンズ・フード・マーケット」のお客さんはどんな人たちですか? と訊ねてみると、40代以上の本物志向な方が多いのだそう。

ウチのお客さんは、デパートの食料品売り場などでは、あまりお惣菜を買わないタイプの人です。皆さんお魚はここ、パンはここ、お惣菜はここ・・・と信頼できる地元のお店を持っていて、そこでお買い物する方が多いですね。

ウチみたいな手作りのお惣菜は、何度か食べてみて、その価値を理解してもらうことが必要なんです。桜新町のお客さんは少し値が張っても、素材が良いもの、丁寧につくられたものを求める方が多いので、「エプロンズ・フード・マーケット」もひいきにしてもらえているのだと思います。

「エプロンズ・フード・マーケット」店内の様子。

小川さんによると、「作り手とお客さんが直接やりとりすること」が個人商店ならではの良さなのだそう。

例えばデパ地下など作り手と売り手が別々の場合、賞味期限ギリギリの時期まで、食べられるような味付けにしなければなりません。そうすると、どうしても味が濃くなります。惣菜は時間が経つにしたがって、味が馴染んでぼんやりとしてきますから、あらかじめ濃く味をつけざるを得ません。

でも僕たちのような個人の惣菜屋なら、お客さんが買いに来た時間に合わせて、味を整えることもできる。だからいつでも、濃すぎずちょうどよい味のものを提供することができます。

このような惣菜が並びます。どれもとっても美味しそう・・・! 左上:粗挽き煮込みハンバーグ。/右上:春菊とブルーチーズのサラダとクルミパン。/左下:菜の花とベーコンのアーリオ・オーリオ。/右下:ベトナム風ポークスペアリブ。

サザエさんの作者の長谷川町子さんは、近所の魚屋などで雑談しながら買い物をすることを大切にしていたそう。今も同じように、桜新町に住む人々は作り手の顔が見えるお店で、間違いのないものを買い求める傾向にあるのでしょう。しっかりとした個人商店には、デパ地下にはないよさがあることを、この街の人は知っているのです。

■桜新町の豪邸で開かれる、ホームパーティとは?

「エプロンズ・フード・マーケット」では、ワインも飲めるのですが、どんな方がイートインを利用するのでしょうか。

ウチは7割ぐらいがテイクアウトのお客様。席数も少なく、お惣菜をつまみながら少し飲むというスタイルです。私たちがお惣菜を包んでいる間に、スパークリングを1杯飲みながら、お待ちになっているマダムもいますよ。そういうこなれたスタイルが、とても格好良いと感じますね。

生活を楽しむ余裕を持った桜新町の人々の休日の過ごし方の定番は、ホームパーティなのだそう。どんなパーティなのか、気になりますね。

そんなに大きな規模ではないようですが、知り合い7、8人でというパターンが多いのではないでしょうか。ウチでは4名様用のオードブルがあるのですが、それを2つ注文されるお客様が多いですね。

メインはご自身で料理されることも多いようで、「ちらし寿司とローストビーフを作ろうと思っているから、それに合う前菜を見繕って欲しい」というようなご要望もあります。作るものをあらかじめうかがって、それに合わせた前菜を作ることも多いですね。

とても華やかなオーダーメイドオードブル。

歴史ある住宅地である桜新町には、洗練された日常があり、上手に年齢を重ねた素敵な大人たちが多いようです。

■洗練された住宅地の歴史をアップデートする、新しい住人を呼び込みたい

二子玉川に楽天の社屋が移転してから、新しい住人も増えているそう。馬事公苑が2020年東京五輪・パラリンピックの馬術競技会場に決まったこともあり、今後注目度もアップすることでしょう。

新しくやってくる人々も、この街のよさを理解しているので、そのことで街の雰囲気が変わることはないですね。この街は、落ち着いた住宅地として、すでに完成しています。今後は僕たちのように新しく入った人間が、桜新町のよさを受け継いでアップデートしていければよいのではないでしょうか。

実は小川さんは、2016年1月から、「エプロンズ・フード・マーケット」の隣におはぎの専門店「タケノとおはぎ」をオープンしました。

3個、5個、7個単位で購入すると、曲げわっぱに詰めて、好きなマスキングテープを選んで留めてくれるので、手土産にもぴったり!

ちょっとおしゃれでほっこりとした風情もある「おはぎ」が、未来の桜新町の名物になればいいなと思っています。

洗練された洋風デリと優しいおはぎ。どちらのお店も、桜新町らしさを受け継ぎつつ、街に新鮮さを加える存在。こんなお店が、これからの桜新町に増えていくかもしれません。

エプロンズ・フード・マーケット
住所:東京都世田谷区桜新町1丁目21-12 プロシード桜新町1階
電話番号:03-3427-8315
営業時間:火〜金:16:00〜22:00 土日:12:00〜22:00(月曜日定休)

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