気になるあの街はどんな街だろう。その街で活動するからこそ知り得る、街の変化の兆しや、行き交う人々の違いを「街の先輩」に聞いてみました!「街の先輩に聞く!」、 第60弾は「荻窪」です。
個性的な街が揃い、人気の高い中央線エリア。その中でも規模が大きく、その割に落ち着いた雰囲気を持つ街が荻窪です。戦後の闇市から始まった駅周辺の活気と、古くから文豪や著名人が暮らしてきた住みやすさが絶妙なバランスで同居しています。
今回は戦後からこの地に店を構える「荻窪中華そば春木屋」の二代目店主今村幸一さんに、現在の荻窪はどのようにして出来上がったのか歴史を伺いました。
■たゆまぬ努力で “変わらない味” を守る、荻窪ラーメンの中心的なお店
「荻窪中華そば春木屋」は昭和24年から続く老舗ラーメン店。全国的なラーメンブームが起こる以前から荻窪駅周辺のラーメン店は人気を集め「荻窪ラーメン」と呼ばれていましたが、春木屋はその中心的な存在で、都外からもラーメン愛好家が足を運ぶ有名店です。今村さんはその二代目店主。荻窪で生まれ育ちました。
私が生まれた頃の荻窪は、新宿や晴海の方まで都電が通っていたんです。だけど家もぽつぽつとしかなくて、道路でみんなごろ寝するくらいのんびりしたところでしたね。当時は食べ物屋さんが少なくて、食べに行くと言ったら新宿の中村屋さんとか、伊勢丹に行ってお子様ランチとかそういうような時代でした。それが今はお店がかなり増えましたよね。
荻窪の現在の商店街の数はなんと13。特に飲食店は大型のチェーン店からここにしかない小さなお店まで、歩いていると、和洋中問わず多くのお店に出会います。
今はのれんでは食べていけない時代になりましたね、長くやっていると最初から期待も高いですから。裏方で常に研究をして試行錯誤を重ねて、それがお客さんの言う「いつも変わらない味」なんですよ。本当に変わっていないのではなくて、お客さんの期待をいつも満たす味を研究し続けています。うちはラーメンしか商品がない。大袈裟ですけど命をかけていますから。
■闇市から始まった、住民の生活を支える商店の発展
そんなお店の数が多く、活気ある荻窪の歴史を語る上で欠かせないのがタウンセブン。戦後150店舗ほどが集まる闇市として始まりましたが、1981年に商業ビルとして再スタート。お店の多くは変わってしまいましたが、現在も地域住民の生活の基盤となるお店が集まる場所として、その名を残しています。
昔のタウンセブンは、今ある有名なところで言うと吉祥寺のハモニカ横丁みたいなものですね。ああいうのが当時はどの街にもあったんです。でも一部が火事になったりして、SEIYUと一緒になったビルになったんです。それとほぼ同時にルミネもできて、駅前の景色はかなり変わりましたね。
2つの駅前ビルに13の商店街。シャッターが目立つところもほとんどなく、他の街に行かずとも、欲しいものはなんでも手に入りそうです。
■多くの著名人が暮らした緑と落ち着きのある住宅街
そしてもうひとつの荻窪の特徴、それは文豪や文化人が古くから暮らす、落ち着いた街であるという側面です。
荻窪の街はちょっと奥に入ると歴史のある住宅街になりますね。軍人さん著名人が昔から多かったので、駅から北も南も5分と歩かないうちに立派なお宅がたくさんあります。そのお宅を杉並区が買い上げて公園にしたところも多いです。そういうところから空気がきれいだとか、住んでて落ち着くという方もいますね。
荻窪には井伏鱒二さんや与謝野晶子さんをはじめ多くの著名人が暮らしており、さらにその著名人が暮らしていた邸宅を区が保管して管理している公園などがたくさんあります。
うちの斜め前にも徳川夢声さんという活弁士さんがいて、当時やっていた出前を毎日持って行っていました。「今日のはしょっぱいよ」とか言われたりね(笑)。
うちを初めてグルメ本に載せてくれた映画監督の山本嘉次郎さんとか、春木屋応援団として応援してくれた人がたくさんいましたね。それからラーメンブームがやってきて、先代もびっくりしていましたね。こんなに朝昼晩食べられておやつにも夜食にもなる食べ物は他にないよな、やってよかったなと言っていました。
駅周辺の活気と少し離れた住宅街の落ち着き。この相反するものの共存が、荻窪の魅力だと言えます。
吉祥寺や新宿みたいに最先端のものがなんでもあるわけじゃないですけど、一通り当たり前のものが当たり前にある、気張らずに生活できるところが魅力だと思います。飲食店も、奇抜なお店は長続きしないんですよね。空気のように当たり前にあって、生活の中になじむようなお店が多いです。保守的とも言えるかもしれないですけど、生活と商業がいい塩梅で隣り合っている街だと思いますね。
■官民一丸となって、これからも活気ある荻窪に
そんな荻窪はこれからどんな街になるのか、最後に聞いてみました。
昔だったら、商店街ごとにいかにお客さんを呼ぶか工夫して、催しを開いたりしましたけど、今は街全体として、商人も公務員もひっくるめてこの先どうしていこうか考えることが必要だと思いますね。もう、ひとつの商店街でどうこうする時代じゃなくて、もっと全体的なプロジェクトとしてやっていかないと街は衰退していくと思うんです。
そういう動きで街に人を呼んでいくことが、街のためにつながっていくんじゃないかと思いますね。
自分のお店と同じくらい街のことを真剣に考えるお店の人たちの心が、荻窪の街をここまで発達させてきたのだと実感しました。
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<荻窪中華そば春木屋>
住所:東京都杉並区上荻1-4-6
TEL:03-3391-4868
営業時間:11:00~21:00
定休日:毎週火曜日
ウェブサイト:http://www.haruki-ya.co.jp/
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取材・文:笹川智香/撮影:笹川智香・cowcamo編集部/編集:THE EAST TIMES・cowcamo編集部